DVT(深部静脈血栓症)は、体内の深い静脈に血栓(血の塊)が形成される状態で、特に脚の静脈で発生しやすい病気です。この血栓が肺に流れ込むと肺塞栓症(PE)を引き起こし、生命を脅かすこともあります。DVTは早期発見と適切な治療が非常に重要です。以下に、DVTの治療方法を詳しく解説します。
DVTの治療の目的
DVTの治療は、以下の3つの目的があります。
- 血栓が大きくなるのを防ぐ
- 血栓が肺に移動して肺塞栓症を引き起こすのを防ぐ
- 長期的な合併症(ポスト・サンビナス症候群)の予防
DVTの主な治療法
1. 抗凝固療法(血液をサラサラにする薬)
抗凝固療法は、DVTの最も一般的な治療法であり、血栓の成長を防ぎ、新しい血栓が形成されるのを防ぎます。これらの薬は血液を「薄く」し、血液の凝固を防ぎますが、すでにできている血栓を直接溶かすものではありません。
抗凝固薬の種類
- ヘパリン: 注射で投与される即効性の抗凝固薬で、通常は入院中の初期治療で使用されます。
- 低分子ヘパリン(LMWH): サブキュータニュアス(皮下注射)で投与され、入院中または外来治療でも使用されます。
- ワルファリン: 経口抗凝固薬で、血栓の形成を抑制しますが、効果が現れるまで数日かかるため、ヘパリンと併用されることが多いです。
- 新しい経口抗凝固薬(NOACs): ダビガトラン、アピキサバン、リバーロキサバンなど、近年登場した抗凝固薬で、ワルファリンに比べて食事制限や定期的な血液検査の必要が少ない利点があります。
治療期間
DVTの治療期間は、通常3か月以上にわたります。再発リスクが高い場合や、持続的なリスク因子(たとえばがんや遺伝的な凝固異常)がある場合は、さらに長期間にわたることもあります。
2. 血栓溶解療法
血栓溶解療法は、強力な薬剤を使って血栓を溶かす治療法です。この治療は、肺塞栓症のリスクが高い場合や、通常の抗凝固薬で十分な効果が得られない場合に行われます。一般的には以下のような状況で適用されます。
- **tPA(組織プラスミノーゲン活性化因子)**という薬を使用して血栓を溶かします。
- カテーテルを用いて血栓のある部位に直接薬を投与する方法もあります。
血栓溶解療法は効果が高い反面、出血のリスクがあるため、慎重に適用されます。
3. フィルターの設置(下大静脈フィルター)
下大静脈フィルターは、肺塞栓症を防ぐために使われる装置です。フィルターは、主に下肢から心臓へと血液を運ぶ大静脈(下大静脈)に設置され、血栓が肺に到達するのを防ぎます。
- 抗凝固療法が適用できない患者や、肺塞栓症のリスクが高い患者に使用されることが多いです。
- このフィルターは一時的または永久的に設置されますが、取り外し可能なタイプが一般的です。
4. 圧迫ストッキング
圧迫ストッキングは、DVT治療の補助として使用され、特にDVT後に長期的な合併症である**ポスト・サンビナス症候群(Post-Thrombotic Syndrome, PTS)**を予防する目的で用いられます。このストッキングは、血流を促進し、脚の腫れや痛みを軽減する効果があります。
圧迫ストッキングは、最低2年間、または医師の指導に従って装着することが推奨されています。
DVT治療における生活習慣の改善
治療と並行して、生活習慣の改善も重要です。以下のポイントに注意しましょう。
- 長時間の座位や立位を避ける: 飛行機や車での長時間の移動時には、定期的に足を動かすことが推奨されます。
- 適度な運動: 歩くなどの軽い運動は血流を改善し、血栓の予防に役立ちます。
- 水分補給: 十分な水分を摂取し、血液がドロドロになるのを防ぎます。
- 禁煙: 喫煙は血栓形成のリスクを高めるため、禁煙が推奨されます。
まとめ
DVTの治療は、抗凝固薬を中心に、血栓の拡大や肺塞栓症の予防を目指します。重症の場合には血栓溶解療法や下大静脈フィルターの設置が行われることもあります。また、予後を良くするためには圧迫ストッキングの使用や、日常生活での工夫も重要です。DVTは早期発見が重要なので、症状が疑われる場合はすぐに医師の診断を受け、適切な治療を受けることが大切です。