妊娠中のインスリン抵抗性の増加とヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)の役割について

概要
妊娠の第2〜第3トリメスターでは、母体のインスリン抵抗性が生理的に増加します。これは主に、**ヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)**というホルモンの影響によるものです。hPLは胎盤の合胞体栄養膜から分泌され、胎児への栄養供給を最適化するために母体の代謝を調整します。以下では、hPLの作用と妊娠糖尿病との関連について解説します。

ヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)の作用

作用説明結果
母体の血糖値上昇グルコースを節約し、胎児がエネルギーとして使用できるようにする胎盤を通過し、胎児の成長に必要なエネルギーを供給
母体のタンパク質分解増加アミノ酸を胎児に供給するアミノ酸が胎児の成長に利用される
母体の脂肪分解増加母体のエネルギー供給を脂肪酸とケトン体に依存させる母体の脂肪酸ケトン体をエネルギー源とし、グルコースとアミノ酸を胎児に保存

妊娠中のインスリン抵抗性

hPLは母体のインスリン抵抗性を増加させ、血糖値が上昇しますが、これにより胎児に必要なエネルギー源(グルコース)が効率的に供給されます。さらに、hPLは母体の膵臓β細胞の増殖を刺激し、インスリン分泌を増やすことで、インスリン抵抗性の上昇に対応しようとします。

しかし、母体の膵臓がこの増加したインスリン抵抗性を補うのに十分なインスリンを分泌できない場合、妊娠糖尿病が発生することがあります。

hPLと妊娠糖尿病の関係

時期hPLの分泌量インスリン抵抗性の増加糖代謝への影響
第2トリメスターhPLの分泌量が増加中程度のインスリン抵抗性母体の血糖値が徐々に上昇
第3トリメスターhPLの分泌がピークに達する高いインスリン抵抗性血糖値がさらに上昇し、妊娠糖尿病のリスクが増加

妊娠糖尿病のスクリーニングは、hPLがピークに達する第2トリメスター後半から第3トリメスター初期に行われるのが一般的です。このタイミングでのスクリーニングにより、妊娠糖尿病を適切に検出でき、適切な治療が行われます。

他のホルモンとの比較

ホルモン役割妊娠中の変化
成長ホルモンインスリン抵抗性と脂肪分解を促進妊娠中は分泌が増加しない
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)黄体を刺激し、妊娠初期にプロゲステロンを分泌させる妊娠初期にピークを迎える
プロラクチン乳腺の発達と母乳生産を促進出産後に母乳分泌を促す
甲状腺ホルモンエネルギー代謝を調整妊娠中に甲状腺結合グロブリンが増加し、総T3/T4が上昇するが、遊離ホルモンは正常範囲

まとめ

**ヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)**は、妊娠中の第2〜第3トリメスターにおいて、母体のインスリン抵抗性を増加させ、胎児に十分な栄養を供給するための重要な役割を果たします。しかし、膵臓の機能がこのインスリン抵抗性に対抗できない場合、妊娠糖尿病が発生することがあります。妊娠糖尿病のスクリーニングは、hPLの分泌がピークに達する時期に行われるのが理想的です。


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