HIV治療とテノフォビル誘発性腎障害について

概要
HIV患者における抗レトロウイルス療法(ART)の開始後、近位尿細管機能障害が現れることがあります。これは、代表的なHIV治療薬の一つであるテノフォビルによる腎毒性が疑われるケースです。テノフォビルは核酸アナログであり、**ヌクレオチド逆転写酵素阻害薬(NRTIs)**の一つとしてHIV治療に広く使用されています。本記事では、テノフォビルの作用機序と、腎臓に与える影響について解説します。

テノフォビルの作用機序

テノフォビルは逆転写酵素を阻害することで、HIVのRNAゲノムを二本鎖DNAに変換する過程を妨げ、ウイルスの増殖を抑制します。

  • 分類:ヌクレオチド逆転写酵素阻害薬(NRTIs)
  • 役割:HIVのRNAをDNAに変換する逆転写酵素を阻害し、ウイルスの複製を抑える

テノフォビルによる腎毒性

テノフォビルは腎臓の近位尿細管で主に排泄されますが、高濃度で蓄積するとミトコンドリアDNA合成に干渉し、細胞損傷を引き起こす可能性があります。これにより、急性腎障害や近位尿細管機能障害が現れます。

代表的な症状

  • 急性腎障害:クレアチニン値の上昇、水分貯留
  • 近位尿細管機能障害:低リン血症、糖尿、蛋白尿

腎生検での所見

  • 近位尿細管細胞の損傷(例:刷子縁の消失、基底膜の剥離)
  • 巨大ミトコンドリアの存在(例:大きなエオジン好性封入体)

改善

テノフォビルの使用中止により、腎障害は通常改善します。

他の腎疾患との鑑別

疾患主な特徴腎生検所見
HIV関連腎症血尿、高血圧、浮腫巣状分節性糸球体硬化、顕著な間質炎症
高血圧性腎硬化症重度の高血圧、蛋白尿血管損傷(内膜肥厚、管腔狭小化)、糸球体硬化、間質線維化
溶連菌感染後糸球体腎炎急性腎障害、蛋白尿、浮腫、高血圧、赤褐色尿びまん性増殖性糸球体腎炎
トリメトプリム・スルファメトキサゾール誘発性腎障害急性腎障害、間質性腎炎近位尿細管への局所的な損傷は通常なし

まとめ

テノフォビルはHIV治療に広く使用される薬剤ですが、まれに近位尿細管にダメージを与えることがあります。この結果、急性腎障害や近位尿細管の機能障害(例:低リン血症、糖尿、蛋白尿、水分貯留)が発生することがあります。腎生検では糸球体や間質には異常が見られない一方で、近位尿細管の損傷が確認されることが多いです。

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