Rett症候群は、1966年にウィーンの小児神経科医アンドレアス・レットによって初めて報告された神経系に特異な発達障害です。この疾患は、通常、乳児期早期に外界への反応の欠如や筋緊張低下が見られますが、これらの症状は軽微なため、初期には異常に気づかれないことが多いです。乳児期後半以降に、手の常同運動(繰り返しの動作)などの特徴的な症状が現れます。現時点では根本的な治療法はなく、対症療法が中心です。
疫学
Rett症候群の有病率は、20歳以下の女性で約0.008%(約1万人に1人)とされています 。
病因
Rett症候群の原因遺伝子は、X染色体上にあるMethyl-CpG-binding protein2 遺伝子(MECP2)です 。1999年にMECP2遺伝子の異常がRett症候群の原因として特定され、その後、Rett症候群の80-90%にこの遺伝子の変異が見られることが分かりました。一部の非典型例では、CDKL5やFOXG1という遺伝子の変異も関与しています。
症状
Rett症候群の症状は、年齢依存的に進行します。以下の表に主な症状をまとめます。
症状 | 説明 |
---|---|
乳児期初期 | 外界への反応の欠如、筋緊張低下。通常、正常と見なされることが多い。 |
乳児期後半 | 手の常同運動(手をもむなどの動作)や姿勢ジストニアが出現。 |
小児期以降 | 四つ這いや独歩の遅れ、側彎、ジストニア、知的障害、てんかん発作。 |
精神的および情動的異常 | 社会的交流の欠如、情動の不安定さ。 |
その他の症状 | 頭囲の拡大や停滞、消化管の問題、骨折のリスク、突然死の可能性。 |
合併症
重症の患者では、感染症や誤嚥性肺炎などの合併症に注意が必要です。食物摂取が困難なため、栄養不足や胃ろう造設を必要とする場合もあります。骨の発達不良や骨折のリスクも考慮する必要があります。
治療法
現時点では根本的な治療法はありません。治療は主に対症療法で、以下の方法が用いられます:
- てんかん発作:抗てんかん薬の投与。
- 運動機能の改善:理学療法や作業療法。
- 手の常同運動:適切な上肢機能の指導。
- 情緒面:各種療育や支援。
研究と展望
MECP2遺伝子の研究は進行中で、将来的には遺伝子治療などの可能性が期待されていますが、現在は基礎研究段階です。厚生労働省の研究班では、Rett症候群の診断と予防、治療法確立に向けた研究が行われています。
まとめ
Rett症候群は、特異な発達障害であり、現在のところ対症療法が中心です。症状の進行を抑えるためには、早期の診断と適切な支援が重要です。研究が進む中で、将来的にはより効果的な治療法が確立されることが期待されています。