網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)について

網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa, RP)は、遺伝性の進行性疾患で、網膜の光受容細胞が徐々に機能を失い、視力が低下する疾患です。網膜は眼球の内側にあり、光を感知して脳に視覚信号を送る重要な役割を果たしています。この病気では、特に視細胞と呼ばれる光感受性の細胞(桿体細胞錐体細胞)が変性し、最終的に視覚が著しく損なわれます。


1. 病因

網膜色素変性症の主な原因は、遺伝子の異常です。この疾患は、遺伝性疾患として家族内で発生することが多く、次のような遺伝形式が報告されています。

  • 常染色体優性遺伝(AD):親から子へ50%の確率で遺伝し、比較的進行が遅いです。
  • 常染色体劣性遺伝(AR):両親からの異常遺伝子を受け継いだ場合に発症し、進行が速いことが多いです。
  • X連鎖劣性遺伝:男性に発症しやすく、進行が早いことが多いです。

これらの遺伝子異常は、視細胞の機能に関与するタンパク質(ロドプシンペリフェリンなど)の産生異常や、細胞のエネルギー供給の異常を引き起こし、最終的に視細胞が破壊されます。


2. 臨床的特徴

網膜色素変性症の進行は、個人によって異なりますが、最も特徴的な症状は以下の通りです。

  • 夜盲症(暗順応障害)夜間や暗所で視力が低下する症状です。特に桿体細胞が最初に影響を受けるため、早期の段階から夜盲症が現れることが多いです。
  • 視野狭窄(トンネル視):進行に伴い、周辺視野が徐々に狭くなります。進行が進むと、視野が極端に狭くなり、トンネル状に物が見えるようになります。
  • 視力低下:最終的には、錐体細胞も障害され、中心視力も低下し、最悪の場合、失明に至ることがあります。
  • 光過敏:光に対して敏感になることがあり、明るい場所では不快感を覚えることがあります。

3. 眼底検査での変化

眼底検査は、網膜色素変性症の診断において重要です。以下の特徴的な所見が見られます。

  • 骨小体様色素沈着:網膜の周辺部に黒い骨の形に似た色素の沈着が見られます。これが「網膜色素変性症」の名前の由来です。
  • 網膜の血管狭小化:網膜の血管が細くなり、血流が低下していることが確認されます。
  • 視神経萎縮:進行すると、視神経乳頭(視神経の出入口部分)が白く萎縮していきます。
  • 網膜萎縮:網膜が薄くなり、変性が進行していることを示します。

4. 診断方法

網膜色素変性症の診断は、主に眼科的な検査によって行われます。

  • 眼底検査:色素沈着や血管の狭小化、視神経萎縮などの所見を確認します。
  • 視野検査:視野の欠損を確認するために、視野の広さや狭さを測定します。
  • 網膜電図(ERG):網膜の視細胞の反応を測定する検査で、特に桿体細胞錐体細胞の機能低下を検出します。RP患者では、この反応が低下または消失します。
  • 遺伝子検査:RPの原因となる遺伝子変異を特定するために行われることがあります。家族性の発症パターンがある場合、遺伝子検査は非常に有効です。

5. 治療法

現時点では、網膜色素変性症を根治する治療法はありませんが、症状の進行を遅らせたり、生活の質を向上させるための治療法が開発されています。

薬物療法

  • ビタミンA:一部の研究では、ビタミンAの高用量投与が病気の進行を遅らせる可能性があると報告されています。ただし、高用量のビタミンAには副作用もあるため、注意が必要です。
  • DHA(ドコサヘキサエン酸):魚油に含まれるDHAが網膜の健康をサポートする可能性があるとして、研究が進められています。

外科的治療

  • 網膜インプラント(人工網膜)人工網膜を網膜に移植し、視覚信号を脳に送る技術が開発されており、一部の患者で視覚改善が報告されています。

遺伝子治療

  • 遺伝子治療は現在研究段階ですが、特定の遺伝子変異を修正する技術が開発されつつあります。アメリカでは一部の遺伝子治療薬(ラキスターナ(Luxturna))が承認されており、遺伝子異常を持つ特定のRP患者に対して効果があるとされています。

低視力支援

  • 視覚補助具:視覚補助器具や、生活環境に適応するためのトレーニングが行われます。
  • 視力訓練:中心視力を使って、日常生活を自立して行えるよう支援する訓練が行われます。

6. 予後

網膜色素変性症の予後は、遺伝形式発症年齢によって異なります。進行が遅いタイプでは、中年期まで視力が比較的保たれることもありますが、進行が早い場合、若年期に失明することもあります。

網膜色素変性症の種類別の特徴と予後の表

遺伝形式主な症状発症年齢進行速度予後
常染色体優性遺伝(AD)夜盲、視野狭窄思春期遅い中年以降まで視力が保たれる
常染色体劣性遺伝(AR)夜盲、視力低下幼児期~思春期速い若年期に失明のリスクがある
X連鎖劣性遺伝夜盲、視力の著しい低下幼少期非常に速い早期に重度の視覚障害が発生

まとめ

**網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa)**は遺伝性疾患であり、網膜の視細胞が次第に変性することで視力が低下する病気です。夜盲や視野狭窄、最終的には失明に至ることもあります。現在、根治療法はありませんが、進行を遅らせたり、生活の質を向上させる治療法が開発されつつあります


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