1. Wallenberg症候群とは?
Wallenberg症候群(ワレンベルグ症候群、別名:外側延髄症候群)は、延髄の外側部分が梗塞によって損傷されることで発症する神経疾患です。延髄は脳幹の一部で、呼吸や心拍、血圧の制御、嚥下、発声など重要な機能を担う中枢です。特に椎骨動脈や**後下小脳動脈(PICA: Posterior Inferior Cerebellar Artery)**の閉塞が原因となることが多く、様々な神経障害を引き起こします。
2. 原因
- 後下小脳動脈(PICA)や椎骨動脈の閉塞
- これらの動脈が閉塞すると、延髄外側部が血流不足に陥り、神経が損傷します。
主なリスク要因
- 高血圧: 血管にかかる負担が増えるため。
- 動脈硬化: 血管が狭窄し、血流が減少します。
- 心房細動や心血管疾患: 血栓が作られ、動脈を閉塞する原因となります。
3. 症状
Wallenberg症候群は、延髄外側の損傷により左右どちらかの体の部分で特有の症状が現れます。症状の多くは、損傷を受けた側と反対側の感覚異常や、同側の顔面や咽頭に異常が見られます。
主な症状
- 顔面と体の感覚異常
- 顔の同側で温痛覚(温度や痛みを感じる能力)の低下。
- 体の反対側で温痛覚の低下(交差性障害と呼ばれます)。
- めまい・ふらつき
- 前庭神経核が影響を受けるため、回転性めまいや、ふらつき、バランス感覚の低下が生じます。
- 嚥下障害(飲み込みの困難)
- 舌咽神経(IX)や迷走神経(X)が損傷されるため、飲み込みや発声に問題が起こります。
- 嗄声(させい)
- 声がかすれたり、うまく発声できなくなる。
- ホルネル症候群
- ホルネル症候群は瞳孔縮小、眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)、発汗の減少などが特徴。これは、交感神経の通路が延髄外側に存在し、損傷されることで発症します。
- 運動失調
- 小脳への影響により、運動の調整が難しくなり、ふらついた歩き方になる(小脳失調)。
4. 診断
診断は、主に神経学的な評価と画像診断によって行われます。
神経学的評価
- 医師は、患者の温痛覚の左右差や、嚥下、発声の問題、バランス感覚を調べます。
画像診断
- MRI(磁気共鳴画像): 最も確実な診断方法です。延髄の外側に血流障害や損傷があるかを確認します。
- CTスキャン: 急性期の脳卒中の際には、CTでも確認できますが、MRIの方が精度が高いです。
5. 治療
Wallenberg症候群の治療は、症状の軽減や血流の改善を目的としています。治療は主に次の方法が含まれます。
急性期の治療
- 血栓溶解療法: 血栓が原因の場合、発症直後であれば血栓を溶かす薬(t-PAなど)を使用して血流を回復させることが可能です。
- 抗血小板薬や抗凝固薬: 血液をサラサラにし、血栓の再発を防ぐために使用されます。
リハビリテーション
- 嚥下訓練: 嚥下障害を改善するために、専門的なリハビリが行われます。
- バランストレーニング: 小脳失調やめまいに対するリハビリとして、バランストレーニングが行われます。
- 音声療法: 嚥下や発声に問題がある場合、言語聴覚士による音声リハビリが行われます。
6. 予後
Wallenberg症候群の予後は、損傷の程度や早期治療の有無に依存します。軽度な場合、リハビリで症状が改善することが多いですが、重度な場合は嚥下や発声、バランスの障害が長期的に残ることがあります。
7. Wallenberg症候群に関するイラスト
以下の図は、Wallenberg症候群で損傷される脳の領域と、それに関連する症状を示したものです。
Wallenberg症候群の概要図
- 延髄の外側部分が損傷される。
- 小脳、顔面神経、脊髄視床路などが影響を受ける。
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| 外側延髄 | <--- 梗塞
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↓ 損傷される神経
- 前庭神経核: めまい
- 脊髄視床路: 体の反対側での温痛覚低下
- 顔面神経: 顔面の同側での温痛覚低下
- 迷走神経: 嚥下障害、嗄声
- 小脳脚: 運動失調
8. 症状と対応する神経の表
症状 | 損傷された神経や部位 | 解説 |
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顔面の温痛覚低下 | 三叉神経脊髄路(同側) | 顔の痛みや温度感覚が損なわれる |
体の温痛覚低下 | 脊髄視床路(反対側) | 体の反対側で温度感覚や痛みを感じにくくなる |
嚥下障害・嗄声 | 迷走神経、舌咽神経 | 食べ物を飲み込むのが困難になり、声がかすれる |
めまい・ふらつき | 前庭神経核 | 回転性めまいやバランスの喪失 |
運動失調(ふらつき歩行) | 小脳下脚 | 小脳への血流障害により、協調運動が難しくなる |
瞳孔縮小、眼瞼下垂 | 交感神経路(ホルネル症候群) | 瞳孔が縮小し、まぶたが垂れ下がる(ホルネル症候群) |
まとめ
Wallenberg症候群は、延髄外側部の梗塞によって引き起こされる症候群で、顔面と体の感覚異常、嚥下障害、ホルネル症候群など多彩な神経症状が特徴です。早期診断と適切な治療が症状の軽減と機能回復に重要であり、リハビリテーションによる回復が期待されます。