1. プロポフォール(Propofol)
作用機序
プロポフォールは、GABA(γ-アミノ酪酸)受容体に作用することで、脳内のGABA活性を増強し、抑制性の神経伝達を促進します。これにより、中枢神経系(CNS)の過剰な興奮を抑制し、鎮静作用や麻酔作用を発揮します。
血行動態への影響
プロポフォールは、血圧の低下と心拍数の減少を引き起こすことがあります。これは、心筋収縮力の低下および末梢血管の拡張によるものです。特に、心臓や血圧に問題のある患者において、急激な血圧低下がリスクとなります。
代謝部位
プロポフォールは、主に肝臓で代謝され、一部は肺でも代謝が行われます。その代謝産物は主に腎臓から排泄されます。代謝は迅速で、作用時間も短いのが特徴です。
合併症
- 呼吸抑制: プロポフォールは強力な呼吸抑制作用を持ち、特に高用量や急速投与の場合に呼吸が止まるリスクがあります。
- 低血圧: 血行動態への影響により、低血圧が頻繁に見られます。
- プロポフォール注入症候群(PRIS): 長時間高用量投与によって、代謝性アシドーシス、心不全、腎不全を引き起こす可能性があるまれな症状です。
2. エトミデート(Etomidate)
作用機序
エトミデートは、GABA受容体に作用し、GABA作動性の抑制性神経伝達を増強します。これにより、脳の神経活動が抑えられ、鎮静と麻酔作用を発揮します。
血行動態への影響
エトミデートは、血行動態に対する影響が比較的少ない薬剤で、特に血圧や心拍数に与える影響が軽微であるため、循環器系への負担が少ない麻酔薬として評価されています。このため、心臓手術や血圧低下が問題となる患者に多く使用されます。
代謝部位
エトミデートは、肝臓で代謝され、主に酵素による加水分解を受けます。代謝産物は腎臓から排泄されます。
合併症
- 副腎抑制: エトミデートの最大の懸念は、一過性の副腎機能抑制です。これは、副腎皮質ホルモン(特にコルチゾール)の生成を一時的に阻害し、ストレスに対する生理的な反応が低下するためです。
- ミオクローヌス: エトミデートは、注入後にミオクローヌス(筋肉の不随意なけいれん)が見られることがあります。
3. ケタミン(Ketamine)
作用機序
ケタミンは、NMDA受容体(N-メチル-D-アスパラギン酸受容体)の拮抗薬として作用します。これにより、興奮性神経伝達を抑制し、解離性麻酔を引き起こします。ケタミンは鎮静効果とともに強力な鎮痛効果を持ち、意識を保ちながら痛みを抑える作用が特徴です。
血行動態への影響
ケタミンは、他の麻酔薬と異なり、血圧を上昇させ、心拍数を増加させる作用があります。これは、交感神経系を刺激することで引き起こされます。したがって、低血圧の患者や、心拍数が低下している患者にとって有益な場合がありますが、高血圧や心疾患のある患者には注意が必要です。
代謝部位
ケタミンは、肝臓で代謝され、代謝産物であるノルケタミンは腎臓から排泄されます。代謝速度が速いため、作用時間も比較的短いです。
合併症
- 幻覚・錯乱: ケタミンは、使用後に幻覚や解離性の精神症状を引き起こすことがあり、これが多くの患者にとって不快な経験となります。
- 呼吸抑制: ケタミンは呼吸抑制作用が少ない麻酔薬ですが、非常に高用量で投与された場合や併用薬によって呼吸抑制が起こることがあります。
- 悪夢・興奮: 術後や麻酔から覚醒する際に悪夢や興奮状態が生じることがありますが、ベンゾジアゼピンと併用することでこれを予防することができます。
まとめ
特徴 | プロポフォール | エトミデート | ケタミン |
---|---|---|---|
作用機序 | GABA受容体活性化 | GABA受容体活性化 | NMDA受容体拮抗 |
血行動態 | 血圧低下、心拍数減少 | 影響少ない | 血圧上昇、心拍数増加 |
代謝部位 | 肝臓、肺 | 肝臓 | 肝臓 |
合併症 | 呼吸抑制、低血圧、PRIS | 副腎抑制、ミオクローヌス | 幻覚、錯乱、悪夢 |
これらの麻酔薬はそれぞれ異なる特性を持ち、患者の状態や手術内容に応じて使い分けられます。使用時には、合併症や血行動態への影響をよく理解し、慎重に投与することが求められます。