健康にかかわる行動変容を支援するための介入のための理論やモデルについて

健康にかかわる行動変容を支援するための介入には、様々な理論やモデルが用いられます。これらの理論やモデルは、個人がどのようにして行動を変えるか、または変えないかを理解し、その過程を支援するために設計されています。

1. トランスセオレティカルモデル(TTM: Transtheoretical Model)

  • 概要: 行動変容の準備状態に応じて、個人が変化するプロセスを段階的に捉えるモデルです。このモデルは、行動変容を「段階的に進行するプロセス」として理解し、各段階に応じた介入を設計するために用いられます。
  • 段階:
    1. 無関心期(Precontemplation): まだ行動を変える意図がない段階。
    2. 関心期(Contemplation): 行動を変えることを考え始める段階。
    3. 準備期(Preparation): 行動変容に向けた計画を立て始める段階。
    4. 実行期(Action): 実際に行動を変える段階。
    5. 維持期(Maintenance): 新しい行動を持続し、定着させる段階。
  • 応用例: 喫煙の禁煙プログラムや体重管理プログラムで、個々の段階に応じた支援を行う。

2. ヘルスビリーフモデル(HBM: Health Belief Model)

  • 概要: 個人が健康行動を取るかどうかを決定する要因として、認知的側面に注目したモデルです。個人の信念が健康行動にどのように影響するかを理解するために用いられます。
  • 主な要素:
    1. 罹患可能性の認識(Perceived Susceptibility): 病気にかかる可能性に対する認識。
    2. 罹患の深刻さの認識(Perceived Severity): その病気がもたらす結果の深刻さの認識。
    3. 行動の利益の認識(Perceived Benefits): 行動を変えることの利益の認識。
    4. 行動に伴う障壁の認識(Perceived Barriers): 行動を変えることの障壁の認識。
    5. 行動へのきっかけ(Cues to Action): 行動を促すきっかけやトリガー。
    6. 自己効力感(Self-Efficacy): 行動を実行できるという自信。
  • 応用例: ワクチン接種の促進キャンペーンや、がん検診の受診率向上を目的としたプログラム。

3. 社会的認知理論(SCT: Social Cognitive Theory)

  • 概要: 個人の行動は、環境的要因、認知的要因(自己効力感)、および過去の行動経験との相互作用によって決定されるとする理論です。特に、モデリング(他者の行動を観察し模倣する)や自己効力感の強化が重要とされます。
  • 主要な概念:
    1. 自己効力感(Self-Efficacy): 自分が行動を成功裏に遂行できるという信念。
    2. 観察学習(Observational Learning): 他者の行動を観察し、それを学習するプロセス。
    3. 期待(Expectations): 行動がどのような結果をもたらすかについての予測。
    4. 強化(Reinforcement): 行動の結果が再びその行動を行う動機になるプロセス。
  • 応用例: 運動習慣の定着や、食習慣改善プログラムにおけるピアサポートグループの活用。

4. 計画的行動理論(TPB: Theory of Planned Behavior)

  • 概要: 行動意図がその行動の最大の決定要因であり、行動意図は態度、主観的規範、および行動に対する自己効力感(行動コントロール感)によって形成されるとする理論です。
  • 主な構成要素:
    1. 態度(Attitude): 特定の行動に対する個人の肯定的または否定的な評価。
    2. 主観的規範(Subjective Norms): 他者がその行動をどのように評価しているかに対する認識。
    3. 行動コントロール感(Perceived Behavioral Control): 行動を遂行する能力に対する自信。
  • 応用例: 運動プログラムへの参加意欲を高めるための介入や、アルコール消費を減らすための教育プログラム。

5. 自己決定理論(SDT: Self-Determination Theory)

  • 概要: 個人が自己の行動を自主的に決定することを重視する理論で、内発的動機づけと外発的動機づけが行動の持続にどのように影響するかを探ります。
  • 主な要素:
    1. 内発的動機(Intrinsic Motivation): 行動自体が楽しい、または満足感を得られるために行う動機。
    2. 外発的動機(Extrinsic Motivation): 外部からの報酬や罰に基づいて行動する動機。
    3. 心理的ニーズ: 自律性(Autonomy)、有能感(Competence)、関係性(Relatedness)という3つの基本的な心理的ニーズが満たされることで、行動が持続しやすくなる。
  • 応用例: 健康的な食生活の維持や、禁煙プログラムにおける内発的動機づけの強化。

まとめ

これらの理論やモデルは、個々の健康行動を理解し、効果的な介入を設計するための基盤となります。具体的な状況や対象者の特性に応じて、これらの理論を組み合わせて使用することも多く、行動変容を支援するための有効なアプローチとして活用されています。


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