Schroeck JL, Ford J, Conway EL, Kurtzhalts KE, Gee ME, Vollmer KA, Mergenhagen KA. Review of Safety and Efficacy of Sleep Medicines in Older Adults. Clin Ther. 2016 Nov;38(11):2340-2372. doi: 10.1016/j.clinthera.2016.09.010.
2016年11月に『Clinical Therapeutics』誌に発表された「高齢者における睡眠薬の安全性と有効性のレビュー」というタイトルの論文は、高齢者に対する不眠治療、特に行動療法が効果を示さなかった場合の薬物療法に焦点を当てたレビューです。
主な内容:
- 初期治療: 認知行動療法(CBT)や睡眠衛生指導が、高齢者の不眠症に対する第一選択の治療法として推奨されています。
- ベンゾジアゼピン系薬剤: 高齢者への長期使用は、認知機能の低下や転倒、骨折などのリスクが高いため、推奨されていません。
- 非ベンゾジアゼピン受容体作動薬(non-BzRAs): ザレプレオン、ゾルピデム、エスゾピクロンなどはベンゾジアゼピンよりも安全性が高いとされていますが、認知症や重傷、骨折のリスクがあり、長期使用には注意が必要です。
- ラメルテオン: メラトニン受容体作動薬で、副作用が少なく、安全性が高いとされています。睡眠の入眠時間短縮や総睡眠時間の増加に効果があり、入眠障害に対する有力な第一選択肢とされています。
- スボレキサント: 限られたデータしかありませんが、睡眠維持に効果があり、軽度の副作用(眠気など)が報告されています。ただし、昼間の眠気などの残存効果が見られることがあります。
- 抗うつ薬の低用量使用: 患者にうつ病が併存している場合のみ、不眠症に対して使用されるべきです。トラゾドンなどがオフラベルで使われることがありますが、その効果は明確でなく、副作用リスクも存在します。
- 抗精神病薬、ガバペンチン、その他の薬剤: 高齢者における不眠症治療のための研究は十分ではなく、重大な副作用があることが多いです。ガバペンチンは、むずむず脚症候群や慢性疼痛を併発している患者に有効な場合があります。
- ハーブやサプリメント: バレリアンやメラトニンなどの非規制製品は、入眠時間にわずかな効果があるものの、残存する眠気を引き起こす可能性があります。
臨床実践への示唆:
このレビューは、不眠症の治療においては、まず非薬物療法、特にCBTを優先すべきであることを強調しています。薬物治療は、特にベンゾジアゼピンやnon-BzRAsのような高リスク薬は、最後の手段として使うべきです。治療の目標は、昼間の眠気や警戒心の低下などの副作用を伴わず、入眠時間や睡眠時間を改善することです。
結論:
高齢者に睡眠薬を処方する際には、慎重な対応が求められます。不眠症治療の将来の方向性は、非薬物療法の推進、併存疾患の治療、ベンゾジアゼピンやnon-BzRAsの使用を最小限に抑えることに重点を置くべきです。
このレビューは、高齢者の不眠症治療に関する安全で効果的な治療法を考える上で、医療従事者にとって有用な情報を提供しています。
出典:
Schroeck JL, Ford J, Conway EL, Kurtzhalts KE, Gee ME, Vollmer KA, Mergenhagen KA. Review of Safety and Efficacy of Sleep Medicines in Older Adults. Clin Ther. 2016 Nov;38(11):2340-2372. doi: 10.1016/j.clinthera.2016.09.010.