小児上腕骨外側顆骨折とは?

概要

小児上腕骨外側顆骨折(lateral condyle fracture of the humerus in children) は、肘の外側に位置する 上腕骨外側顆 に発生する骨折です。この骨折は小児期に発生する肘周辺の骨折の中で、上腕骨顆上骨折 に次いで2番目に多く、特に 6歳から10歳 の子どもに多く見られます。外側顆骨折は、適切に治療されないと 肘関節の変形機能障害 を引き起こすことがあるため、迅速な診断と治療が必要です。

解剖学的背景

上腕骨の遠位端(肘に近い部分)は、外側顆内側顆 という2つの主要な突起を持っています。外側顆は前腕の橈骨(とうこつ)と関節を形成し、肘の動きに関わります。外側顆骨折は、上腕骨の外側に強い外力が加わることで、橈骨と接触する部分に骨折が生じることが特徴です。

原因

上腕骨外側顆骨折は、外力が肘に加わった際に発生します。特に、以下の状況で発生することが多いです。

  • 転倒時の外力: 子どもが手をついて転倒した際、肘に外力がかかり、外側顆が損傷します。肘が内側に捻られると外側顆に負荷が集中します。
  • スポーツや遊び中の外傷: 野球やサッカー、遊びの中で転倒や衝突が起きた場合に発生することがあります。

症状

上腕骨外側顆骨折の主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 肘の痛み: 骨折部分に強い痛みがあり、動かすとさらに痛みが増します。特に肘を曲げたり伸ばしたりする際に痛みが強くなります。
  • 腫れ: 肘の外側が腫れ、触れると痛みが生じます。腫れは骨折後すぐに進行することが多いです。
  • 可動域の制限: 痛みと腫れのため、肘を正常に動かすことが困難になります。特に肘を完全に伸ばすことが難しくなります。
  • 変形: 重度の骨折の場合、肘の外側が不自然に変形して見えることがあります。
  • 打撲や内出血: 骨折の周辺に打撲や内出血が見られることがあり、皮膚が青紫色に変色することがあります。

分類

上腕骨外側顆骨折は、ミルヒ分類(Milch classification) という分類法で評価され、骨折の部位や程度によって Milch I型Milch II型 に分類されます。

1. Milch I型

  • 骨折線が肘の関節内(肘関節の滑車の外側)を通らず、比較的安定した骨折です。
  • 関節外骨折 とも呼ばれ、治療が比較的容易です。

2. Milch II型

  • 骨折線が肘の関節内(滑車の内部)を通る骨折で、関節に影響を与えることがあります。
  • 関節内骨折 として分類され、関節の不安定性や変形を引き起こすリスクが高いため、手術が必要になることが多いです。

診断

上腕骨外側顆骨折の診断には、以下の方法が使用されます。

1. 視診・触診

医師は、腫れ、変形、痛みの位置を確認し、肘を動かす際の痛みの程度を評価します。また、神経や血管が損傷していないかも確認します。

2. X線検査

X線検査 は、上腕骨外側顆骨折の確定診断に最も重要な検査です。骨折の位置やずれの程度、関節への影響を確認するために、正面と側面のX線画像が撮影されます。

3. CT検査

骨折が複雑な場合や、関節面の詳細を評価する必要がある場合、CT検査 が行われます。CTスキャンは、骨折の正確な位置や関節への影響を詳細に確認するのに役立ちます。

治療

上腕骨外側顆骨折の治療は、骨折のずれの程度や関節への影響に応じて、保存療法と手術療法に分けられます。

1. 保存療法

軽度の骨折で、骨片のずれが少ない場合は、ギプス固定 などの保存療法が選択されます。以下の手順で治療が進行します。

  • 整復:骨折がずれている場合、まず骨片を正しい位置に整復します。この手技は通常、局所麻酔や全身麻酔下で行われます。
  • ギプス固定:整復後、肘をギプスで固定し、骨が自然に癒合するのを待ちます。固定期間は通常 3~6週間 です。
  • 定期的なX線検査:骨が正しく癒合しているかを確認するために、定期的にX線検査が行われます。

2. 手術療法

骨折が重度で、骨片のずれが大きい場合や、関節面に影響を与えている場合は、手術療法 が必要です。手術では、金属ピンやスクリューを使用して骨片を正しい位置に固定します。

  • 経皮ピン固定術:骨片が大きくずれている場合、ピンを挿入して骨を固定します。ピンは骨が癒合した後、外来で取り除かれます。
  • 内固定術:ピンだけでは十分な固定が得られない場合、プレートやスクリューを使用して骨を強固に固定することがあります。

リハビリテーション

骨が癒合した後、リハビリテーション が行われます。リハビリの目的は、肘の可動域と筋力を回復させることです。リハビリの内容は以下の通りです。

  • 可動域訓練:固定解除後、肘の可動域を広げるためのストレッチや運動を行います。
  • 筋力強化:筋肉の萎縮を防ぎ、筋力を回復させるためのエクササイズが行われます。
  • 機能回復訓練:日常生活に必要な動作を再びスムーズに行えるよう、機能回復を目指したトレーニングが行われます。

合併症

上腕骨外側顆骨折は、適切に治療されなかった場合や治癒過程で問題が発生した場合、いくつかの合併症が生じる可能性があります。

  • 偽関節:骨折部分が癒合しない場合、偽関節が形成され、肘の安定性が損なわれることがあります。
  • 肘の変形:骨折の整復が不完全であると、肘が変形したまま治癒し、将来的に関節機能に障害をもたらすことがあります。
  • 関節硬縮:骨折後に関節の動きが制限され、肘を完全に曲げたり伸ばしたりできない状態が続くことがあります。
  • 神経麻痺:骨折時に肘周辺の神経が損傷されると、手や指に麻痺やしびれが残ることがあります。

予後

適切な治療とリハビリが行われれば、上腕骨外側顆骨折は通常、良好な予後 が期待されます。特に骨の成長が盛んな小児では、骨の癒合が早く、リハビリを通じて機能を回復できるケースが多いです。ただし、骨片のずれが大きい場合や治療が遅れた場合には、長期的なリハビリが必要になることがあります。


まとめ

小児上腕骨外側顆骨折は、肘周辺の外傷で比較的よく見られる骨折です。適切な診断と治療が行われれば、ほとんどのケースで良好な回復が期待されますが、骨折が重度であったり治療が遅れた場合には、肘関節の変形や機能障害のリスクがあるため、迅速な対応が必要です。

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