小児上腕骨顆上骨折とは?

概要

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ) は、小児において最も一般的に見られる肘周辺の骨折です。この骨折は、肘のすぐ上にある上腕骨の部分で発生し、通常は手をついて転倒した際に起こります。特に 5歳から10歳 の子どもに多く見られ、転倒やスポーツ時の外傷が主な原因です。骨の成長が盛んな時期に発生するため、適切な治療と管理が重要です。

発生のメカニズム

上腕骨顆上骨折は、肘のすぐ上の 上腕骨遠位端(上腕骨の下部) に発生します。この部位は、成長軟骨板(骨端線)があり、成長中の骨が比較的弱いため、外力がかかりやすくなっています。最も一般的な骨折のメカニズムは、子どもが手をついて転んだ際に、肘が過伸展し、力が上腕骨の遠位部分に集中することで骨折が起こります。

原因

  • 転倒: 小児上腕骨顆上骨折は、手をついて転んだ際に生じることが多く、遊びやスポーツ、日常の活動中に頻繁に発生します。
  • スポーツ事故: スポーツ活動中に肘に強い力が加わることで発生することがあります。特に転倒や衝突を伴う競技で発生しやすいです。
  • 交通事故: 自転車事故や車両事故などで肘が直接的に打撃を受けることも原因となります。

症状

上腕骨顆上骨折の典型的な症状には、以下のものがあります。

  • 激しい痛み: 骨折部分に強い痛みが生じ、動かすことが困難になります。
  • 腫れ: 肘の周辺が大きく腫れ、触れると痛みが増すことがあります。
  • 変形: 骨折が重度の場合、肘の外観が変形して見えることがあります。
  • 可動域の制限: 肘や腕を動かすことが難しく、曲げたり伸ばしたりするのが痛みで困難になります。
  • 神経や血管の損傷: 骨折の際に神経や血管が損傷することがあり、手や指の感覚が麻痺したり、血流が制限されて手が青白くなることもあります。

分類

上腕骨顆上骨折は、伸展型屈曲型 に分けられます。

1. 伸展型骨折

  • 伸展型 は、最も一般的なタイプで、肘が過伸展されたときに発生します。全体の 90%以上 を占め、肘が過剰に伸びることで上腕骨が前方に折れるのが特徴です。
  • 骨片が後方へ移動するため、骨の変形が顕著になります。

2. 屈曲型骨折

  • 屈曲型 は、肘が曲がった状態で転倒したときに発生し、骨片が前方にずれます。この型は全体の 10%未満 と比較的稀ですが、伸展型よりも治療が難しい場合があります。

診断

上腕骨顆上骨折は、臨床症状や画像診断を基に確定されます。

1. 視診・触診

医師は、腫れや変形、痛みの場所を確認し、骨折の程度を評価します。また、神経や血管が損傷していないかどうかもチェックされます。手や指の感覚や動きに異常がある場合、神経損傷の可能性があるため、迅速な治療が必要です。

2. X線検査

X線検査 は、上腕骨顆上骨折の診断において最も重要な検査です。骨折の位置、程度、ずれの有無を確認し、適切な治療方針を決定します。通常、正面と側面の2方向から撮影し、骨片の移動や骨端線の状態を詳細に評価します。

3. 血管造影やCT検査

重度の骨折で血管損傷が疑われる場合、血管造影CT検査 が行われることがあります。これにより、骨折によって圧迫されている血管や神経の損傷の程度が確認されます。

治療

小児上腕骨顆上骨折の治療は、骨折のタイプや重症度、骨片のずれの有無に応じて異なります。骨折が軽度であれば保存療法が選択されますが、重度の場合は手術が必要になることがあります。

1. 保存療法

骨片のずれが少ない場合や、変形が少ない場合には、ギプス固定 などの保存療法が行われます。ギプスやスプリントで肘を安定させ、骨が自然に癒合するのを待ちます。通常、以下のステップで治療が進行します。

  • 整復:骨片のずれを整復し、正しい位置に戻します。この手技は通常、麻酔下で行われます。
  • 固定:整復後、肘を安定させるためにギプスやスプリントを使用し、骨の癒合を促します。固定期間は通常 3~6週間 です。
  • 経過観察:固定中も定期的にX線検査を行い、骨が正しく癒合しているかどうかを確認します。

2. 手術療法

骨折が重度で、骨片が大きくずれている場合や、神経や血管に損傷がある場合は、手術療法 が必要です。手術では、金属ピンやプレートを使用して骨片を元の位置に固定し、正しい癒合を促します。

  • 経皮ピン固定:骨片のずれが大きい場合、ピンを皮膚から挿入して骨を固定します。ピンは骨が癒合するまで数週間維持され、その後、外来で取り除かれます。
  • 内固定:ピンだけでは十分に固定できない場合、プレートやスクリューを使用して骨片を強固に固定します。

リハビリテーション

骨が癒合した後、適切なリハビリテーション が重要です。肘や腕の可動域を回復させ、筋力を再び取り戻すために、以下のリハビリプログラムが行われます。

  • 可動域訓練:固定が解除された後、肘や腕の可動域を広げるためのストレッチや運動を行います。
  • 筋力強化:腕や手の筋力を強化するためのエクササイズが行われ、腕全体の機能を回復させます。
  • 日常生活復帰:リハビリの過程で、日常生活に必要な動作や、スポーツ活動への復帰を目指します。

合併症

上腕骨顆上骨折は、適切に治療されてもいくつかの合併症が発生する可能性があります。特に、神経や血管の損傷が起きた場合、以下のような合併症が起こることがあります。

  • フォルクマン拘縮:肘周辺の筋肉や神経が損傷されることにより、手や腕の筋肉が硬直することがあります。これにより、手や指が動かしにくくなる症状が見られます。
  • 変形治癒:骨折が不十分に整復された場合、肘の形が変形したまま治癒し、可動域が制限されることがあります。
  • 神経麻痺:骨折による神経の損傷が原因で、手や指に麻痺が残ることがあります。特に 橈骨神経尺骨神経 が損傷されやすいです。

予後

小児の骨は成長力が高く、早期に適切な治療が行われれば、通常は 良好な予後 が期待されます。ほとんどのケースでは、骨は正常に癒合し、長期的な合併症も少なく、子どもは日常生活やスポーツ活動に復帰することができます。ただし、合併症が発生した場合や治療が遅れた場合には、長期的なリハビリや追加の治療が必要になることがあります。


まとめ

小児上腕骨顆上骨折は、成長期の子どもに多く見られる骨折の一つであり、迅速な診断と治療が重要です。軽度の骨折では保存療法が有効ですが、重度の場合は手術が必要です。適切な治療とリハビリテーションにより、ほとんどの子どもは元の生活に復帰できる可能性が高いです。

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