概要
小児化膿性股関節炎は、細菌感染によって股関節に炎症が発生し、関節内に膿が溜まる疾患です。股関節内の急性の感染症として、迅速な治療が必要な緊急疾患の一つです。細菌が関節に侵入すると、激しい痛みや腫れ、発熱などの症状を引き起こし、適切な治療を行わなければ、関節の破壊や永久的な障害を残すリスクがあります。化膿性股関節炎は、特に 新生児や幼児 に多く見られ、早期診断と即座の治療が重要です。
原因
化膿性股関節炎は、主に 細菌感染 によって引き起こされます。感染源は体内の他の場所(喉や皮膚など)から血流に乗って股関節に到達するか、直接関節に侵入することがあります。最も一般的な病原菌は以下のものです:
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus): 化膿性関節炎の主な原因菌。
- インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae): ワクチンにより減少しましたが、かつては乳幼児に多く見られました。
- 溶血性連鎖球菌(Streptococcus): 特にグループA連鎖球菌が原因となることがあります。
- 大腸菌(Escherichia coli): 特に新生児においては大腸菌感染が見られます。
感染は、以下のような状況で起こることがあります:
- 血行性感染: 他の部位(例えば、皮膚の感染や扁桃炎など)から細菌が血流に乗って関節に侵入する。
- 外傷: 股関節付近への外傷や手術などで、直接細菌が関節内に入る場合。
- 免疫力の低下: 免疫力が低下している子どもは感染のリスクが高まります。
症状
小児化膿性股関節炎の症状は急激に進行し、強い痛みを伴います。以下が典型的な症状です。
- 強い股関節痛: 子どもは股関節に激しい痛みを訴え、動かそうとしません。特に歩行や脚を動かす際に痛みが強くなります。
- 跛行または歩行不能: 幼児や子どもが歩行時に足を引きずったり、痛みのために全く歩けなくなることがあります。
- 発熱: 感染による高熱(38度以上)が一般的に見られますが、低体温の場合もあります。
- 腫れと赤み: 股関節周辺が腫れ、皮膚が赤くなることもあります。触ると熱を持っていることがあります。
- 股関節の可動域制限: 子どもは股関節を動かすことが困難になり、特に股を開く、または内外旋する動きが制限されます。
- 全身状態の悪化: 感染が進行すると、全身の状態が悪化し、だるさや食欲不振などの全身症状が見られることもあります。
診断方法
化膿性股関節炎の診断は、迅速に行う必要があります。診断が遅れると、関節の破壊が進行し、永久的な障害を引き起こす可能性があるため、いくつかの検査が行われます。
1. 問診と視診
股関節の痛みの場所や強さ、発熱の有無、最近の感染症や外傷などの病歴を確認します。跛行や股関節の動きの制限などの症状を観察します。
2. 血液検査
感染や炎症を確認するために、次の血液検査が行われます:
- 白血球数(WBC): 感染がある場合に増加します。
- C反応性タンパク(CRP): 炎症があると上昇する指標です。
- 赤沈(ESR): 慢性的な炎症を示す指標で、化膿性股関節炎では上昇します。
3. 関節液の採取(関節穿刺)
股関節に針を刺して関節液を採取し、細菌の有無を確認します。この検査は 確定診断 に非常に重要で、採取した液体は培養され、原因菌が特定されます。また、関節液が膿性である場合、化膿性股関節炎の可能性が高まります。
4. 画像検査
- 超音波検査: 股関節内の液体の貯留を確認するために行われ、炎症や関節液の増加が検出されます。
- X線検査: 骨の異常を確認しますが、初期の段階では異常が見られないこともあります。
- MRI検査: より詳細な画像で、関節の内部構造や感染の範囲を確認できます。特に感染が広がっている場合や、骨髄炎が疑われる場合に有用です。
治療方法
小児化膿性股関節炎は 緊急の治療 が必要です。早期に治療を開始することで、関節の損傷を最小限に抑えることができます。主な治療法は以下の通りです。
1. 抗生物質治療
細菌感染が原因であるため、抗生物質 が治療の基本です。関節液の培養結果を基に、原因菌に最も効果的な抗生物質を選択します。初期には、静脈内投与(点滴)が行われ、感染が収まるまで経口薬に切り替えられます。治療期間は通常数週間から数ヶ月に及びます。
2. 関節のドレナージ(排液)
関節内に膿がたまっている場合、関節液を排出する手術(関節ドレナージ)が必要です。これにより、感染を除去し、関節への圧力を軽減します。通常、関節に針を刺して液を排出するか、外科的に切開して行われます。
3. 手術治療
重度の感染や抗生物質治療に反応しない場合、感染した組織の除去や関節洗浄を行うための手術が必要になることがあります。手術後も抗生物質の投与を継続し、再発を防ぎます。
4. 安静と固定
治療期間中は、股関節を安静に保つことが重要です。痛みを軽減し、感染が広がらないようにするために、固定具を使用する場合があります。
予後と合併症
早期に適切な治療を行えば、化膿性股関節炎の予後は良好です。しかし、診断が遅れたり治療が不十分な場合、関節の損傷や長期的な合併症が残る可能性があります。
- 関節の破壊: 感染によって関節が破壊され、股関節の可動域が制限されることがあります。
- 骨髄炎: 感染が骨に広がると、骨髄炎を引き起こし、さらに深刻な状態になる可能性があります。
- 関節の脱臼や変形: 長期にわたって感染が続くと、股関節が脱臼したり、変形性関節症(OA)のリスクが高まります。
まとめ
小児化膿性股関節炎は、細菌感染による股関節の急性炎症であり、迅速な診断と治療が不可欠です。適切な抗生物質治療と排液が行われれば、多くの場合は回復しますが、治療の遅れは長期的な関節損傷につながる可能性があるため、早期発見が重要です。