概要
大腿骨頭すべり症(Slipped Capital Femoral Epiphysis: SCFE) は、股関節にある大腿骨の骨端(骨頭)が、大腿骨本体から滑り落ちるようにずれる疾患です。主に 思春期 の成長期に発生し、特に 肥満 や 成長ホルモンの変化 が関連しています。股関節の骨端は成長板(エピフィシス)に支えられていますが、この部分が弱くなることで、骨頭が大腿骨本体からずれ、痛みや運動制限を引き起こします。
SCFEは 緊急性のある整形外科疾患 であり、早期の診断と治療が将来的な股関節の機能を保つために非常に重要です。治療が遅れると、股関節の変形や変形性関節症(OA)のリスクが高まるため、迅速な対応が求められます。
症状
SCFEの症状は徐々に進行することが多く、子どもが歩行に異常を感じたり、股関節や膝に痛みを訴えることがあります。主な症状には以下のものがあります。
- 股関節の痛み: 最も一般的な症状で、通常は片側の股関節に痛みが生じます。痛みは膝や太ももに放散することもあり、時には膝の痛みとして認識されることがあります。
- 跛行(足を引きずるような歩行): 痛みのために歩き方が不自然になり、片足をかばうように歩く跛行が見られます。特に体重をかけた時に痛みが強くなるため、長時間の歩行が困難です。
- 股関節の可動域制限: 股関節を動かす際に痛みを感じ、内旋や外旋(股関節を内側・外側に回す動作)が難しくなります。
- 脚の長さの違い: 骨頭がずれた側の脚が短くなることがあります。これにより、歩行時のバランスが崩れることがあります。
発症の原因
SCFEは、成長期の子どもにおいて、骨端の成長板が弱くなり、体重や運動の負荷によって骨頭がずれることで発生します。具体的な原因は不明ですが、以下の要因がリスクを高めることが知られています。
1. 肥満
思春期の子どもで肥満がある場合、股関節にかかる負担が増加し、SCFEのリスクが高まります。特に体重が増加している成長期の男児に多く見られます。
2. 成長ホルモンの変化
思春期は急激な成長が起こる時期であり、骨の成長とホルモンバランスの変化がSCFE発症に関連していると考えられています。
3. 性別
SCFEは 男児 に多く発症し、発症年齢は通常 10歳から16歳 です。女児はこれより少し早い年齢で発症することがあります。
4. 内分泌異常
甲状腺機能低下症や成長ホルモン異常、糖尿病などの内分泌異常がある子どもは、成長板の弱化が起こりやすく、SCFEのリスクが高くなります。
5. 外傷
軽い外傷や股関節への負荷が、もともと弱くなっている成長板に影響を与え、骨頭のずれを引き起こすことがあります。
診断方法
SCFEの診断は、症状や病歴を基に行われ、確定診断のためには画像検査が必要です。早期に診断することが、股関節の変形や将来的な合併症を防ぐために重要です。
1. 視診・触診
医師は、股関節や膝の痛み、跛行の程度を確認します。また、股関節の可動域を評価し、異常があるかどうかを確認します。
2. X線検査
SCFEの診断には、X線撮影が最も有効です。通常、正面と側面から撮影し、骨頭が大腿骨本体からどの程度ずれているかを確認します。X線では、骨頭が後方および下方にずれている特徴的な像が見られます。
3. MRI検査
初期のSCFEでは、X線で明確なずれが見られない場合があるため、MRIが有効です。MRIは、骨の内部の変化や、血流の状態を詳細に確認できるため、初期段階での診断に役立ちます。
治療方法
SCFEは進行性の疾患であり、早期の治療が不可欠です。主な治療の目的は、骨頭がさらにずれないように固定し、股関節の形状と機能を保つことです。治療方法は、症状の重さや骨頭のずれの程度によって異なります。
1. 緊急手術(骨固定術)
SCFEが診断された場合、通常は 手術による骨固定 が推奨されます。手術では、金属のピンやスクリューを使用して、ずれた骨頭を大腿骨に固定します。これにより、骨頭がさらにずれるのを防ぎ、正常な形に戻るのを助けます。
- 単一のピン固定術: 軽度のSCFEの場合、1本のピンを使用して骨頭を固定する手術が一般的です。
- 多重ピン固定術: 重度の場合や、両側の股関節に問題がある場合は、複数のピンやスクリューで固定することがあります。
2. リハビリテーション
手術後は、股関節の可動域を回復し、筋力を強化するために、リハビリテーションが行われます。数週間から数ヶ月の間、股関節に過度の負荷をかけないようにしながら、ゆっくりと運動機能を回復させていきます。
3. 体重管理
SCFEの発症リスクや再発を防ぐため、体重管理が重要です。特に肥満のある子どもには、手術後も適切な体重維持が推奨されます。
予後と合併症
SCFEは早期に治療されれば、良好な予後が期待されますが、治療が遅れたり、重度のずれがある場合には、いくつかの合併症が発生する可能性があります。
- 股関節の変形: 骨頭がずれたまま放置されると、股関節の変形が進行し、将来的に変形性股関節症(OA)を引き起こす可能性があります。
- 股関節の壊死: 血流障害により、股関節の骨頭が壊死するリスクがあります。これは、特に重度のSCFEや治療が遅れた場合に発生しやすく、股関節の痛みや可動域制限を引き起こします。
- 関節の可動域の制限: 手術後に関節の動きが完全には回復しない場合があります。これにより、スポーツ活動や日常生活に支障が出ることもあります。
まとめ
大腿骨頭すべり症(SCFE)は、思春期の子どもに多く見られる股関節の疾患で、早期の診断と治療が将来的な股関節の健康を保つために極めて重要です。