先天性股関節脱臼(DDH)とは?

概要

先天性股関節脱臼(DDH: Developmental Dysplasia of the Hip)は、新生児や乳児に見られる股関節の発育異常で、股関節が正常な位置に収まらず、骨頭(大腿骨の先端)が臼蓋(骨盤のくぼみ)から外れる、または外れそうな状態を指します。この疾患は出生時に発見されることが多く、早期の診断と治療が子どもの将来の運動機能に大きな影響を与えます。

原因とリスク要因

先天性股関節脱臼の原因は明確には分かっていませんが、遺伝や胎内での姿勢、出産時の影響が関与していると考えられています。主なリスク要因には以下のものがあります:

  • 家族歴: 親や兄弟が股関節脱臼を経験している場合、リスクが高まります。
  • 女児: 男児に比べて約5倍多く発症します。
  • 第一子: 初産の場合、骨盤が狭く、胎児が動くスペースが限られることからリスクが高まることがあります。
  • 臀位(逆子)出産: 胎児が出産時にお尻を先にした位置にある場合、股関節に負担がかかることがあります。
  • 胎内での姿勢: 胎内で足が伸ばされたり、押しつけられたりすることで、股関節に異常な力が加わることがあります。

症状

DDHは、新生児や乳児期には無症状のことが多く、歩き始める頃に症状が現れることがあります。症状には以下が含まれます:

  • 股関節の不安定性: 乳児の股関節が正常に固定されておらず、股関節の動きが不安定です。
  • 脚の長さの違い: 一方の脚が他方より短く見えることがあります。
  • 歩行異常: 子どもが歩き始めると、跛行(足を引きずるように歩く)や、左右に揺れる「アヒル歩き」が見られることがあります。
  • 股関節の可動域の制限: 股を開く動作が制限されることがあります。

診断

DDHの診断は、出生時の健康診断や乳児健診で行われます。診断の手段としては、以下のものが一般的です。

1. 視診・触診

  • オルトラニ検査(Ortolani Test): 股関節を開閉する際に、脱臼した股関節が音を立てて元に戻るかを確認します。
  • バロウ検査(Barlow Test): 股関節を押して脱臼させ、脱臼の容易さを確認します。

2. 超音波検査

乳児の股関節を非侵襲的に確認できる方法です。骨の発育を確認し、股関節が臼蓋に正しくはまっているかを評価します。

3. X線検査

生後6ヶ月以降になると、股関節の骨の発達が進むため、X線での診断が有効となります。

治療方法

DDHは早期治療が極めて重要で、適切な治療によりほとんどの子どもは正常な発育を遂げることが可能です。年齢や股関節の状態によって治療法は異なります。

1. 装具療法(パブリック装具)

新生児や乳児に対しては、パブリック装具という特別な支具を装着し、股関節を正しい位置に保ちながら、股関節と臼蓋が正常に発育するのを助けます。装具は通常、1日中装着し、治療期間は数ヶ月です。

2. ギプス固定(ハーネス療法)

パブリック装具での矯正が難しい場合や、装具が効果を示さない場合は、股関節を理想的な位置に戻し、ギプスで固定する治療が行われます。これにより、骨の正常な発達が促されます。

3. 手術療法

遅れて診断された場合や、装具やギプスで効果が得られなかった場合には、手術が必要になることがあります。手術では、脱臼した骨頭を正しい位置に戻し、場合によっては股関節の形成不全を修正するために骨切り術が行われます。

予後と合併症

早期に発見され、適切に治療されれば、ほとんどの子どもは正常な股関節の発育を遂げ、将来的な運動機能に問題が生じることは少ないです。しかし、治療が遅れたり、適切に治療されなかった場合は、以下のような合併症が発生する可能性があります。

  • 股関節の変形: 変形性股関節症(OA)になるリスクが高くなります。
  • 跛行: 片脚の長さが異なることによる歩行障害が生じることがあります。
  • 痛み: 股関節に異常な負荷がかかり、将来的に痛みを感じることがあります。

予防

先天性股関節脱臼を完全に予防する方法はありませんが、いくつかの方法でリスクを軽減することができます。

  • 股関節に優しい抱っこ: 赤ちゃんを抱っこする際には、股関節が自然に外転し、膝が開いたM字姿勢(開脚姿勢)を取るようにすることが推奨されています。
  • おくるみの工夫: 伝統的なおくるみで赤ちゃんの足をまっすぐに包み込むことは、股関節に悪影響を与える可能性があるため、股関節を自然な開脚姿勢に保つことが重要です。

まとめ

先天性股関節脱臼(DDH)は、早期発見と治療がカギとなる小児股関節疾患です。特に、生後すぐに診断され、適切な治療が行われれば、ほとんどの子どもは正常に成長します。定期的な乳児健診でのチェックや、股関節に優しいケア方法を取り入れることで、将来の運動機能に問題を残さないようにすることが重要です。


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