HIV治療には、**逆転写酵素阻害薬(Reverse Transcriptase Inhibitors, RTIs)**が重要な役割を果たします。この薬剤群は、HIV RNAをDNAに変換する逆転写酵素を阻害することでウイルスの複製を抑制します。RTIsは、ヌクレオシド/ヌクレオチド逆転写酵素阻害薬(NRTIs)と非ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬(NNRTIs)に分類され、それぞれ異なる作用機序と特徴を持っています。
RTIsの分類と作用機序
以下は、HIV治療薬の分類と主な作用機序を示した表です。
分類 | 主な薬剤 | 作用機序 |
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ヌクレオシド/ヌクレオチド逆転写酵素阻害薬(NRTIs) | ジドブジン(Zidovudine)、エムトリシタビン(Emtricitabine)、テノホビル(Tenofovir) | 細胞内で活性型の三リン酸化合物に変換され、逆転写酵素の活性を競合的に阻害。 |
非ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬(NNRTIs) | ネビラピン(Nevirapine)、エファビレンツ(Efavirenz) | 逆転写酵素のアロステリック部位(Allosteric Site)に結合し、酵素活性を非競合的に阻害。 |
NNRTIsの特徴
NNRTIsはNRTIsとは異なり、細胞内リン酸化による活性化を必要としません。そのため、迅速な効果発現が期待されます。主にネビラピンとエファビレンツが用いられ、他の抗レトロウイルス薬と併用されることが一般的です。
主な副作用
NNRTIsは効果が高い一方で、副作用が比較的多い薬剤群でもあります。
- 肝毒性
- 治療開始後6週間以内に発症する可能性があります。
- 症状:インフルエンザ様症状、腹痛、黄疸、発熱など。重篤な場合、致命的な肝不全を引き起こすことがあります。
- 重篤な皮膚反応
- **スティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome)や中毒性表皮壊死症(Toxic Epidermal Necrolysis)**などが報告されています。
他のHIV治療薬との比較
分類 | 主な薬剤 | 作用機序 |
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HIV融合阻害薬(Fusion Inhibitors) | エンフビルチド(Enfuvirtide) | HIVエンベロープgp41に結合し、ウイルスと宿主細胞の融合を阻害。CD4+ T細胞への侵入を防止。 |
プロテアーゼ阻害薬(Protease Inhibitors, PIs) | リトナビル(Ritonavir) | HIVプロテアーゼを阻害し、ウイルスの成熟と感染性を阻害。逆転写プロセスには影響なし。 |
まとめ
**非ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬(NNRTIs)**は、逆転写酵素のアロステリック部位に結合することでHIV複製を阻害します。細胞内での活性化を必要としないため迅速に作用しますが、肝毒性や重篤な皮膚反応といった副作用があるため、治療開始後のモニタリングが重要です。HIV治療では、NRTIsや他の薬剤と併用して総合的なアプローチが取られることが一般的です。