テノホビルによる近位尿細管障害とHIV治療について

HIV患者が抗レトロウイルス療法(Antiretroviral Therapy, ART)を開始した後に、近位尿細管障害(Proximal Tubule Dysfunction)の兆候が現れることがあります。具体的には、低リン血症(Hypophosphatemia)、糖尿(Glucosuria)、タンパク尿(Proteinuria)などの症状が確認されることがあります。これらはテノホビル(Tenofovir)による腎毒性が原因となる場合があり、治療の重要なポイントとなります。


テノホビルとは?

テノホビルは、ヌクレオチド逆転写酵素阻害薬(Nucleotide Reverse Transcriptase Inhibitor, NRTI)の一種で、HIV治療の第一選択薬として広く使用されています。この薬剤は以下のように作用します。

  1. 作用機序
    テノホビルはアデノシンアナログとして、HIVの逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を阻害します。これにより、HIV RNAゲノムが二本鎖DNAに変換されるのを防ぎ、ウイルスの複製を抑制します。
  2. 排泄経路
    テノホビルは主に腎臓の近位尿細管細胞で代謝・排泄されます。その際、高濃度のテノホビルが細胞内に蓄積すると、ミトコンドリアDNA合成が阻害され、細胞障害が発生します。

テノホビルによる腎障害の症状と病理

テノホビルによる腎障害は急性腎障害(Acute Kidney Injury, AKI)や近位尿細管障害の形で現れることがあります。

症状特徴
急性腎障害(AKI)クレアチニン上昇、水分貯留などがみられる
近位尿細管障害リン酸尿(Phosphaturia)、糖尿(Glucosuria)、タンパク尿(Proteinuria)など
生検所見近位尿細管細胞の障害(刷子縁の喪失、基底膜の剥離)、巨大ミトコンドリア(好酸性封入体)

病理学的所見としては、糸球体や腎間質が正常な一方、近位尿細管に損傷が認められます。治療としてテノホビルの中止を検討すると、腎障害は改善することが多いです。


他の腎疾患との鑑別

テノホビル腎毒性は、以下のような疾患と区別する必要があります。

疾患名特徴生検所見
HIV関連腎症(HIV-associated Nephropathy)血尿、浮腫、高血圧を伴う。局所性分節性糸球体硬化症(Focal Segmental Glomerulosclerosis)や腎間質の炎症がみられる。糸球体と腎間質に顕著な炎症、硬化がみられる。
高血圧性腎硬化症(Hypertensive Nephrosclerosis)高血圧の黒人患者に多い。タンパク尿や腎機能障害がみられることがある。血管内膜肥厚、管腔狭窄、糸球体硬化、腎間質の線維化が認められる。
溶連菌後糸球体腎炎(Poststreptococcal Glomerulonephritis)A群β溶血性連鎖球菌感染後に発症。タンパク尿、浮腫、高血圧、急性腎障害を伴う。拡散性増殖性糸球体腎炎が特徴。赤褐色尿(ヘモグロビン尿)がみられることが多い。
トリメトプリム・サルファメトキサゾール(Trimethoprim-Sulfamethoxazole)による腎障害尿路感染予防薬として使用されるが、間質性腎炎や急性腎障害を引き起こす場合がある。腎間質に主に炎症性浸潤が認められるが、近位尿細管の障害は稀

まとめ

テノホビルはHIV治療における重要な薬剤ですが、近位尿細管への腎毒性が発現する場合があります。尿検査や腎生検により早期に診断し、必要に応じて薬剤の中止や変更を行うことで腎機能の回復が期待できます。他の腎疾患と鑑別しながら適切な治療を行うことが重要です。



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