Intratendinous Ganglion of the Extensor Pollicis Longus: Case Report and Literature Review
Authors: Yuji Tomori, Norio Motoda, Mitsuhiko Nanno, Tokifumi Majima
Journal: Journal of Nippon Medical School, 2021; 88(5):500-505. doi: 10.1272/jnms.JNMS.2021_88-416
この症例報告は、外側親指伸筋腱(EPL)内に発生した腱内ガングリオン嚢胞の稀な症例について論じています。患者は73歳の女性で、親指の伸展時に痛みが生じ、MRI検査で腱内の嚢胞が確認されました。この報告では、ガングリオン嚢胞の治療法と、同様の症例の過去の報告との比較を通じて治療戦略の考察を行っています。
主な内容と背景
ガングリオン嚢胞は手や手首に頻繁に発生する良性腫瘍ですが、腱内に発生するものは非常に稀です。多くの場合、ガングリオン嚢胞は見た目の問題や軽度の不快感を引き起こすのみですが、腱内に形成された場合には腱の機能に影響を及ぼし、放置すると腱の自発的断裂を引き起こす可能性もあります。このため、迅速な診断と外科的摘出が推奨されます。
症例報告
対象は73歳の女性で、右親指の伸展に伴う痛みと腱の動きに応じて移動する皮下の腫瘤を主訴に来院しました。画像検査(MRI)により、EPL腱内に5×5×7 mmの嚢胞が確認されました。嚢胞は腱の構造内に位置し、病理検査により、線維組織で構成された壁を持ち、上皮がないことが確認されました。手術では腱内を縦切開し、透明なゼラチン状物質を含む嚢胞を摘出し、EPL腱は非吸収性の縫合糸で縫合修復されました。術後経過は順調で、6か月後のフォローアップ時に痛みや嚢胞の再発は見られませんでした。
考察(Discussion)
腱内ガングリオン嚢胞は稀であり、診断と治療が困難です。多くの症例では、腱内のガングリオン嚢胞は腱の伸筋や屈筋の腱鞘内で発生するため、摩擦や過度な圧力が形成の要因と考えられています。本症例では、嚢胞はEPL腱の伸筋支帯直下に位置しており、腱鞘の摩耗や慢性的な機械的刺激が嚢胞の発生に寄与した可能性が示唆されました。
腱内ガングリオン嚢胞の治療としては、嚢胞の完全摘出が最適とされています。文献レビューによると、腱内ガングリオンはその周囲の腱組織を弱化させ、破裂のリスクを伴うため、保存療法では効果が限られます。摘出後の腱断裂リスクや再発リスクがあるため、腱が大きく損傷している場合は、腱移植や腱の縫合術が考慮されます。また、報告された症例のうち再発が確認されたのは1件のみであり、再発リスクは比較的低いと考えられます。
ガングリオン嚢胞は一般に無症状ですが、早期診断と外科的摘出が推奨されます。本症例のように、腱内ガングリオン嚢胞が腱断裂を引き起こす前に発見されれば、摘出手術が有効です。本症例の術後経過も良好で、患者は再発や運動機能の低下もなく、通常の生活に復帰しました。この報告は、稀な腱内ガングリオン嚢胞の臨床的特徴および診断と治療の重要性を示しています。