腸チフスは、サルモネラ菌(Salmonella Typhi)が引き起こす侵襲的な感染症です。特に衛生状態の悪い地域で人間の糞便によって汚染された食物や水の摂取が原因となります。
腸チフスの原因菌
- Salmonella Typhi(サルモネラ・チフィ):グラム陰性の非乳糖発酵性菌で、主に腸管から体内に侵入し、全身へ広がります。
- 病原性:Vi被膜抗原が好中球の動員や食作用を抑制し、細胞内で増殖しやすい環境を作ります。
症状
腸チフスは、感染後約1週間で発症します。以下のような症状が見られます。
症状 | 説明 |
---|---|
発熱 | 初期症状で、体温が上昇し、相対的徐脈(脈拍-温度解離)を伴います。 |
腹痛 | 感染が進むと腹部に痛みが生じます。 |
下痢または便秘 | 患者によっては、便秘または水様性下痢が見られます。 |
肝脾腫 | 肝臓や脾臓が腫れることがあります。 |
バラの斑点(Rose spots) | 胸部や腹部にピンク色の小さな発疹が一時的に現れます。 |
診断
腸チフスの診断は、主に以下の方法で行います。
- 血液培養:血液から菌を培養し、Salmonella Typhiの存在を確認します。
- 臨床症状:発熱、相対性徐脈、バラの斑点などの特徴的な症状から診断します。
治療
腸チフスの治療には抗生物質が使用され、早期の治療が必要です。適切な治療を行わない場合、重篤な合併症(腸穿孔や敗血症など)が生じる可能性があります。
腸チフスと非腸チフス性サルモネラ感染症の違い
特徴 | 腸チフス(Salmonella Typhi) | 非腸チフス性サルモネラ(S. Enteritidis) |
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感染経路 | 汚染された水や食物、特に人間の糞便を介して感染します。 | 食品(特に卵、家禽)や動物からの感染が主です。 |
発症後の症状 | 発熱、相対性徐脈、バラの斑点、肝脾腫など全身性症状。 | 水様性下痢、腹痛、発熱などの胃腸症状が中心です。 |
炎症反応 | 好中球の動員が抑制され、マクロファージ内で増殖します。 | 好中球浸潤による強い炎症反応が起こります。 |
治療 | 抗生物質による治療が必要です。 | 通常は自己限定的で、特別な治療を必要としません。 |
まとめ
腸チフスは、サルモネラ菌がマクロファージ内で増殖し、リンパ系や細網内皮系を通じて全身に広がることで発症する全身性疾患です。腸チフスに対する迅速な診断と治療が、患者の予後を大きく改善します。