糖尿病ケトアシドーシス(DKA: Diabetic Ketoacidosis)は、インスリン不足によって血糖値が急激に上昇し、体内でケトン体が大量に生成され、血液が酸性化する重篤な状態です。これは主に1型糖尿病の患者に多く見られる症状ですが、2型糖尿病の患者でも発症することがあります。適切な治療を行わないと、意識障害や昏睡状態に陥り、最悪の場合、命に関わることもあります。
1. 発症のメカニズム
DKAは、以下のメカニズムで発症します。
- インスリン不足: インスリンが不足すると、体がエネルギーとしてグルコースを利用できなくなります。その結果、脂肪を分解してエネルギーを得ようとし、脂肪分解の副産物としてケトン体が生成されます。
- ケトン体の蓄積: ケトン体は酸性物質であり、これが血中に蓄積すると、血液のpHが低下(アシドーシス)します。
- 高血糖: インスリンが不足しているため、血糖値が急上昇し、同時に尿中に多量の糖と水分が排出され、脱水症状を引き起こします。
2. 主な原因
- インスリンの未投与: 糖尿病治療で必要なインスリンを投与しなかったり、インスリンの量が不足している場合。
- 感染症: インフルエンザや肺炎などの感染症が引き金となって、インスリンの需要が増加し、DKAを引き起こすことがあります。
- ストレスや外傷: 心理的ストレスやけが、手術などもインスリン抵抗性を高め、DKAを誘発することがあります。
3. 症状
DKAの主な症状は以下の通りです。
- 多飲・多尿: 血糖値が高いために体が水分を排出しようとし、尿量が増加し、喉が渇きやすくなります。
- 倦怠感: エネルギー不足や脱水の影響で、強い倦怠感や疲労感が現れます。
- 吐き気・嘔吐: 血液が酸性化することによって、吐き気や嘔吐を引き起こします。
- 呼吸困難(クスマウル呼吸): 体が血液の酸性度を下げようと深く速い呼吸(クスマウル呼吸)を行います。
- 甘酸っぱい息: ケトン体が体外に排出される際、呼気に甘酸っぱい臭いが現れることがあります。
4. 診断方法
DKAの診断は、以下の検査結果を基に行います。
- 血糖値: 血糖値が250mg/dL以上。
- 血中ケトン体: 血液や尿中にケトン体が高濃度で検出される。
- 動脈血ガス分析: 血液のpHが低下(pH7.3以下)し、アシドーシスが確認される。
- 電解質の異常: ナトリウムやカリウムなどの電解質が異常値を示す。
5. 治療方法
DKAは緊急の治療が必要です。治療の主な目標は、血糖値の低下、ケトン体の除去、そして体内の電解質バランスの回復です。
- インスリン療法: インスリンを静脈注射で投与し、血糖値を正常範囲に戻します。
- 輸液療法: 脱水を補うために点滴で大量の液体を補給します。
- 電解質補正: カリウムやナトリウムなどの電解質のバランスを修正し、体内の機能を回復させます。
6. 予防策
- インスリンの適切な使用: 定期的に血糖値を測定し、指示された通りにインスリンを投与することが重要です。
- 感染症の予防: 感染症はDKAのリスクを高めるため、予防接種や手洗いなど、日常的な予防策を徹底します。
- 定期的な医療チェック: 定期的に医師の診察を受け、糖尿病の管理が適切に行われているか確認します。
まとめ
糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、迅速な対応が必要な糖尿病の急性合併症です。インスリン不足や感染症などが引き金となり、重篤な状態に進行することがあるため、早期の症状に気づき、適切な治療を受けることが重要です。糖尿病を持つ患者は、日々の血糖値管理と適切な治療を通じてDKAを予防し、健康を維持することが求められます。