毛細血管拡張性運動失調症(AT)は、ATM遺伝子の変異によって引き起こされる常染色体劣性の遺伝性疾患です。この病気は、小脳の機能障害、毛細血管拡張症、免疫不全を特徴とし、進行性の症状が現れます。
病因
- ATM遺伝子は、DNA損傷(特に酸化的損傷)を検出し、修復する役割を果たしています。ATMキナーゼは細胞周期を停止させ、DNAの修復を可能にしますが、ATM遺伝子に変異があると、このプロセスが機能しません。
- その結果、DNAの損傷が蓄積し、特にリンパ球や神経細胞にダメージを与えます。これにより、免疫不全や小脳変性が進行します。
臨床的特徴
- 小脳性運動失調:
- 不安定な歩行や構音障害(言葉が不明瞭になる)が幼児期から徐々に現れます。
- 眼球運動失行症(目の動きの協調が取れない)が見られます。
- 毛細血管拡張症:
- 顔面や結膜に拡張した血管(毛細血管拡張症)が現れます。3~5歳頃に典型的に発見されます。
- 免疫不全:
- T細胞とB細胞の機能不全により、再発性の副鼻腔炎や肺感染症が頻繁に見られます。
- DNAの修復障害がリンパ球の機能に影響を与えるためです。
- 悪性腫瘍のリスク:
- ATM遺伝子変異によるDNA損傷修復の障害は、悪性腫瘍(特にリンパ腫や白血病)のリスクを増加させます。
診断
- 臨床的な症状(小脳性運動失調、毛細血管拡張症、再発性感染症)に基づいて疑われ、遺伝子検査で確定診断が行われます。
鑑別診断
疾患 | 特徴 |
---|---|
MHCクラスII欠損症 | 免疫不全が主な症状であり、運動失調は見られません。 |
フリードライヒ運動失調症 | ミトコンドリアの障害により、青年期の進行性運動失調、脊柱側弯症、心筋症が特徴。免疫不全や毛細血管拡張症は見られません。 |
レッシュ・ナイハン症候群 | 自傷行為や痛風が主な症状であり、プリン代謝異常によるX連鎖劣性疾患です。筋緊張や運動失調は見られません。 |
ニーマン・ピック病 | スフィンゴ脂質の蓄積による代謝障害で、筋緊張低下、反射不全、肝脾腫、チェリーレッド斑が特徴。運動失調は見られません。 |
まとめ
毛細血管拡張性運動失調症(AT)は、ATM遺伝子の変異によるDNA修復障害に起因する疾患です。小脳性運動失調、毛細血管拡張症、再発性の感染症が主な特徴であり、DNA損傷修復がうまくいかないことから、悪性腫瘍のリスクも増加します。