概要
頭皮から首にかけて広がる弾性のある腫脹が見られる場合、帽状腱膜下血腫(subgaleal hemorrhage)が疑われます。帽状腱膜下血腫は、頭皮への牽引力が原因となり、特に吸引分娩時に発生しやすいまれな新生児の外傷です。この外傷は、硬膜静脈洞と頭皮の静脈をつなぐ**導出静脈(emissary veins)**の損傷によって引き起こされます。
帽状腱膜下血腫の発生機序
導出静脈がせん断されると、骨膜と帽状腱膜の間(帽状腱膜下腔)に出血が発生します。この空間は頭蓋全体から首まで広がっているため、大量の出血(新生児の血液量の20〜40%)が蓄積する可能性があります。
臨床的特徴
- 弾性のある腫脹:頭皮全体に広がり、縫合線を越えて腫脹が広がることが多い。
- 動きによる変動:腫脹が動きに伴って移動することがあります。
- 進行的な腫脹:出血が進行し、2〜3日かけて腫れが拡大することがあります。
- 重篤な合併症:進行する出血は低血容量、ショック、さらには死亡につながる可能性があるため、迅速な診断と対応が必要です。
他の新生児出血との比較
出血の種類 | 出血部位 | 主な特徴 | 臨床的所見 |
---|---|---|---|
帽状腱膜下血腫 | 骨膜と帽状腱膜の間 | 弾性のある広範な腫脹、縫合線を越える、ショックのリスク | 頭皮全体に広がる腫脹、進行的な拡大 |
くも膜下出血 | 脳とくも膜の間 | 吸引分娩に関連、神経症状(例:けいれん) | 神経学的異常、けいれん |
硬膜下血腫 | くも膜と硬膜の間 | 同じく神経症状が見られる | けいれんや不安定な循環動態 |
硬膜外血腫 | 硬膜と骨膜の間 | 急速に進行することがある | 頭蓋骨外側に明確な局所腫脹 |
頭血腫 | 骨膜と頭蓋骨の間 | 小範囲で硬い腫脹、縫合線を越えない | 局所的な腫れ、縫合線を越えない |
まとめ
帽状腱膜下血腫は、新生児における命に関わる可能性のある出血で、導出静脈がせん断されることで発生します。この出血は骨膜と帽状腱膜の間に血液が蓄積し、頭皮と首にかけて広範に広がる弾性のある腫脹として現れます。迅速に発見されないと、大量出血によりショックや死亡のリスクが高まります。
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