斜角筋ブロック(ISB)は、主に肩や上肢の手術後の痛みを緩和するために使用される局所麻酔技術です。肩関節の手術や鎖骨骨折の手術で広く使用され、特に術後鎮痛に優れているため、早期のリハビリテーションや患者の満足度向上に寄与しています。ISBは、超音波ガイド下で斜角筋(前斜角筋と中斜角筋の間)に局所麻酔薬を注入し、腕神経叢をブロックする方法です。
作用機序
ISBは、肩から上腕にかけての神経の集まりである**腕神経叢(Brachial Plexus)**に対して、局所麻酔薬を注入することで、その領域の痛みを感じる神経を一時的に麻痺させます。これにより、手術中や手術後に痛みを感じにくくなります。
主な適応
ISBは、以下のような手術後の痛みを和らげる目的で使用されます。
- 肩関節鏡手術
- 鎖骨骨折手術
- 肩の関節形成術
合併症とリスク
ISBは有効な鎮痛法ですが、横隔神経ブロック(Phrenic Nerve Block)などの副作用を引き起こす可能性があります。横隔神経は、横隔膜の運動を司る神経で、腕神経叢に非常に近いため、ISBによって意図せず麻痺することがあります。これにより、一側性の横隔膜が動かなくなり、**半横隔膜麻痺(Hemi-Diaphragmatic Paresis, HDP)**が発生することがあります。
横隔神経ブロックによる影響
ISB後に横隔神経が麻痺すると、片側の横隔膜が動かなくなるため、呼吸が困難になることがあります。特に、高齢者や肺機能が低下している患者では、呼吸補助が必要になることがあります。以下の症状が見られることがあります。
- 呼吸困難
- 酸素飽和度の低下
- 胸部不快感や圧迫感
対策と予防
この合併症を防ぐために、以下の対策が考えられます。
- 超音波ガイド下での正確なブロック: 麻酔の位置を正確にコントロールすることで、横隔神経への影響を最小限に抑える。
- 少量の麻酔薬の使用: 麻酔薬の使用量を減らすことで、横隔神経に影響を与えるリスクを低減できる場合があります。
- 手術後の呼吸管理: 高リスク患者に対しては、手術後の呼吸状態をモニタリングすることが重要です。
まとめ
斜角筋ブロック(ISB)は、肩手術などで非常に効果的な術後鎮痛を提供する方法ですが、横隔神経への影響によって半横隔膜麻痺や呼吸困難が生じる可能性があるため、慎重な施行が必要です。特に既往歴に呼吸器疾患のある患者や高齢者には、リスクをよく評価しながら使用することが推奨されます