1. 慢性肉芽腫症(CGD)とは?
慢性肉芽腫症(CGD)は、遺伝性の免疫不全疾患です。主に白血球の一種である好中球が、細菌や真菌を効果的に殺すことができないため、慢性的な感染症や炎症が発生します。この病気では、細菌や真菌を取り込んだ後、通常は殺菌を行うために発生する**活性酸素(ROS)**がうまく作れないことが原因となります。
CGDの患者さんは、生まれつきこの防御機構が弱いため、繰り返し感染症を引き起こし、免疫系が反応して肉芽腫と呼ばれる硬い組織塊を形成することがあります。この病態が「慢性肉芽腫症」という病名の由来です。
2. 原因と遺伝形式
CGDの原因は、好中球の活性酸素産生に関わる酵素複合体(NADPHオキシダーゼ)に欠陥があることです。この欠陥は遺伝子の異常によって引き起こされます。
遺伝形式
- X連鎖型(伴性劣性遺伝):CGDの多くは、X染色体にある遺伝子の異常が原因です。この型は男性に多く発症します。なぜなら、男性はX染色体を1つしか持たないため、この遺伝子に欠陥があるとCGDを発症します。
- 常染色体劣性遺伝型:男女両方に発症する可能性がありますが、X連鎖型よりも発症頻度は低いです。
3. 症状
CGDの患者さんは、通常、乳幼児期から以下のような繰り返しの感染症や炎症に苦しむことが多いです。
主な症状
- 細菌や真菌感染:特に**肺炎、皮膚感染、肝膿瘍(肝臓内の膿の蓄積)**が一般的です。
- リンパ節炎:リンパ節が腫れて痛みを伴うことがあります。
- 肉芽腫の形成:消化管や泌尿器に肉芽腫ができることがあり、これが原因で腸閉塞や尿路閉塞を引き起こすことがあります。
- 慢性的な炎症:CGDは免疫系が適切に機能しないため、体内で持続的な炎症が起こりやすくなります。
重症感染
CGD患者は通常の健康な人に比べて重篤な感染症を発症しやすく、特に以下の細菌や真菌が原因で重篤な状態になることが多いです。
- 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
- アスペルギルス(Aspergillus):真菌の一種で、肺や副鼻腔に感染を引き起こすことがあります。
- ノカルジア(Nocardia):土壌に存在する細菌で、肺や皮膚に感染することがあります。
- バークホルデリア(Burkholderia)
- セラチア(Serratia)
- 菌類:アスペルギルス(Asoergillus)
4. 診断
CGDの診断は、主に以下の検査を用いて行います。
- ジヒドロロドアミン(DHR)試験:好中球が活性酸素をどれだけ産生できるかを測定する検査です。CGD患者では、活性酸素の生成が著しく低下しています。
- NBT試験(ニトロブルーテトラゾリウム試験):同様に好中球の機能を評価する試験です。
- 遺伝子検査:NADPHオキシダーゼの構成遺伝子に異常があるかどうかを確認するため、遺伝子検査が行われます。
5. 治療
CGDの治療は、感染予防と炎症管理が中心となります。以下の治療法が一般的に使用されます。
抗菌薬・抗真菌薬の予防投与
- 抗生物質:長期間にわたって抗菌薬を服用することで、感染症を予防します。
- 抗真菌薬:真菌感染を防ぐため、抗真菌薬も予防的に投与されることがあります。
インターフェロンγ(γ-IFN)療法
- インターフェロンγの注射は、好中球の殺菌機能を改善する効果があることが報告されており、CGDの予防的治療として使用されることがあります。
幹細胞移植
- 造血幹細胞移植は、CGDの根本的な治療法とされています。この治療法では、患者の骨髄を健康なドナーのものと置き換えることで、正常な免疫細胞を再生させます。ただし、ドナーの適合性やリスクを考慮しながら慎重に行う必要があります。
感染時の迅速な治療
感染が発生した場合、速やかに抗菌薬や抗真菌薬で治療を開始することが重要です。早期の対応が、重篤な合併症を防ぐために必要です。
6. 生活の工夫と予防策
CGDの患者さんは感染を避けるために、以下のような工夫が必要です。
- 清潔を保つ:手洗いや消毒を徹底し、日常生活での感染予防に努めます。
- 汚染の可能性がある場所を避ける:特に、土壌や動物、汚染された水源など、細菌や真菌が多い環境を避けることが推奨されます。
- 定期的な医療チェック:定期的に医療機関を受診し、感染の早期発見や予防的治療を続けることが大切です。
まとめ
慢性肉芽腫症(CGD)は、免疫不全によって繰り返し感染症や慢性的な炎症を引き起こす遺伝性疾患です。早期の診断と適切な治療により、感染症や合併症のリスクを低減し、生活の質を向上させることが可能です。感染予防と早期治療が重要であり、患者さんや家族は専門医と連携しながら治療方針を進めていくことが求められます。