性感染症の中には、性器潰瘍を特徴とする病気があり、それぞれが異なる病原体によって引き起こされます。以下の表は、代表的な潰瘍性性感染症の病因、初期病変の特徴、痛みの有無などをまとめたものです。
性器潰瘍性疾患の特徴
疾患名 | 病原体 | 初期病変の特徴 | 痛みの有無 |
---|---|---|---|
軟性下疳 (Chancroid) | Haemophilus ducreyi | 複数の深い潰瘍。灰色や黄色の滲出物を伴うことが多い。病原体は「魚の群れ」のように並ぶ特徴を持つ。 | あり |
性器ヘルペス (Genital herpes) | Herpes simplex virus 1 & 2 | 小さな潰瘍が群を成し、浅く、赤くなる。多核巨細胞やCowdry型A核内封入体が見られる。 | あり |
ドノバン症 (Granuloma inguinale) | Klebsiella granulomatis | 広範な進行性の潰瘍でリンパ節腫脹は見られない。基底部には肉芽様の組織が見られ、ドノバン小体が存在する。 | なし |
梅毒 (Syphilis) | Treponema pallidum | 単一で硬く、境界が明確な潰瘍。非滲出性の基底部を持ち、無痛の鼠径リンパ節腫脹が伴う。暗視野顕微鏡で確認可能。 | なし |
リンパ肉芽腫症 (Lymphogranuloma venereum) | Chlamydia trachomatis | 小さく浅い潰瘍。鼠径部のリンパ節が大きく痛みを伴い、融合して「バボエス」を形成する。 | なし |
各疾患の詳細説明
- 軟性下疳 (Chancroid)
- 病原体: Haemophilus ducreyi (グラム陰性桿菌)
- 特徴: 深く痛みを伴う潰瘍で、周囲に灰色または黄色の滲出物が見られる。鼠径リンパ節腫脹も伴う。
- 疫学: アフリカ、中南米、アジアの一部地域で多く見られるが、アメリカでは比較的まれ。
- 性器ヘルペス (Genital herpes)
- 病原体: Herpes simplex virus (HSV) 1 & 2
- 特徴: 小さな潰瘍が群をなして現れる。基底部は赤く炎症を伴う。診断は細胞診で多核巨細胞や核内封入体を確認。
- ドノバン症 (Granuloma inguinale)
- 病原体: Klebsiella granulomatis
- 特徴: 広範で進行性の潰瘍が見られ、リンパ節の腫脹は伴わない。基底部には肉芽様の組織が観察される。
- 梅毒 (Syphilis)
- 病原体: Treponema pallidum (螺旋菌)
- 特徴: 単一の硬く、境界が明瞭な無痛の潰瘍。暗視野顕微鏡で確認される。
- リンパ肉芽腫症 (Lymphogranuloma venereum)
- 病原体: Chlamydia trachomatis
- 特徴: 小さく浅い潰瘍が現れ、痛みを伴う大きなリンパ節の腫脹(バボエス)が見られる。
まとめ
これらの性感染症は、それぞれ異なる病原体によって引き起こされ、潰瘍の形状や痛みの有無などが異なるため、正確な診断と治療が重要です。診断には、病変からの培養や細胞診、顕微鏡検査が役立ちます。また、予防には適切な性行為管理が重要です。