呼吸性アルカローシスは、呼吸の過剰によって体内の二酸化炭素(CO₂)が過度に排出され、血液のpHが上昇してアルカリ性になる状態を指します。通常、血液のpHは7.35~7.45の範囲に保たれていますが、呼吸性アルカローシスではこの範囲を超えてpHが7.45以上になります。呼吸性アルカローシスは急性または慢性の形で発生し、過呼吸によるものが一般的です。
1. 原因
呼吸性アルカローシスは、呼吸が過剰になることで二酸化炭素が体内から過度に失われ、血液中の酸が減少してpHが上昇することによって発生します。具体的な原因は次の通りです。
- 過呼吸症候群: 強い不安やパニック状態、ストレスにより、呼吸が速く深くなることで二酸化炭素が過剰に排出されます。
- 肺疾患: 肺炎、喘息、肺塞栓など、呼吸困難を引き起こす肺の疾患が原因で過呼吸が起こり、アルカローシスが発生します。
- 高地での低酸素状態: 高地では酸素濃度が低いため、体が酸素を多く取り込もうと過呼吸状態になることがあります。
- 薬物の影響: サリチル酸(アスピリン)中毒や、過剰な呼吸促進作用を持つ薬物の使用が原因で呼吸性アルカローシスが起こることがあります。
- 肝硬変: 肝機能が低下すると、二酸化炭素の代謝が異常になり、呼吸性アルカローシスが発生することがあります。
- 中枢神経系の障害: 頭部外傷や脳腫瘍、脳卒中など、中枢神経に影響を与える疾患が呼吸調節機能を乱すことがあります。
2. 症状
呼吸性アルカローシスの症状は、体内のpHの上昇と、酸塩基バランスの乱れによって引き起こされます。主な症状は以下の通りです。
- めまい: 酸素が脳に十分に行き渡らず、めまいや頭がぼんやりすることがあります。
- しびれやチクチク感: 特に手や足、口の周りにしびれやチクチク感が生じます。これは、血中のカルシウム濃度が低下することで神経が過敏になるためです。
- 手足の痙攣やけいれん: 重度のアルカローシスでは、筋肉が痙攣することがあります。
- 意識混濁や不安感: 呼吸が速くなることで脳が酸素不足状態になり、混乱や不安感、さらにはパニック状態に陥ることがあります。
- 胸痛や動悸: 過呼吸による呼吸筋の疲労や心臓への影響で、胸痛や動悸が起こることがあります。
3. 診断方法
呼吸性アルカローシスの診断は、症状や原因に基づき、血液ガス分析を中心とした検査で行われます。
- 動脈血ガス分析(ABG): 血液のpH、二酸化炭素(CO₂)、重炭酸塩(HCO₃⁻)のレベルを測定します。呼吸性アルカローシスでは、pHが7.45以上に上昇し、CO₂が低下していることが確認されます。
- 電解質測定: 呼吸性アルカローシスでは、血中のカルシウムやカリウムなどの電解質の異常が見られることがあるため、電解質バランスを評価します。
- 肺機能検査: 肺炎や喘息など、肺疾患が原因である場合、肺機能を確認するための検査が行われます。
4. 治療方法
呼吸性アルカローシスの治療は、原因に応じて行われます。過呼吸が原因の場合や、基礎疾患がある場合で治療が異なりますが、主な治療法は以下の通りです。
- 過呼吸のコントロール:
- 呼吸療法: 不安やストレスに伴う過呼吸症候群の場合、呼吸を遅く深くする呼吸法を指導します。紙袋を口にあてて呼吸する方法(紙袋呼吸)も、過剰に排出された二酸化炭素を再吸入するために一時的に使用されますが、これには医師の指導が必要です。
- リラクゼーション法: 過呼吸を引き起こす不安やストレスを軽減するため、リラクゼーション法やカウンセリング、ストレス管理が有効です。
- 基礎疾患の治療:
- 肺炎や喘息、肺塞栓などが原因で過呼吸が起きている場合、基礎疾患の治療が優先されます。感染症であれば抗生物質、喘息発作であれば気管支拡張薬を使用します。
- 高地にいる場合は、低酸素症を改善するために酸素吸入が行われます。
- 薬物療法:
- パニック障害や不安障害に対しては、抗不安薬や抗うつ薬が処方されることがあります。
5. 予防策
呼吸性アルカローシスを予防するためには、原因となる過呼吸や基礎疾患の管理が重要です。
- ストレス管理: 不安やストレスが呼吸性アルカローシスの主な原因となる場合、ストレスを管理するためのリラクゼーション法や、適切な休息を取ることが重要です。
- 適切な呼吸法の習得: 過呼吸を予防するため、ゆっくりと深い呼吸を意識的に行う方法を身につけましょう。ヨガや瞑想などの呼吸法も役立ちます。
- 基礎疾患の管理: 呼吸器系の疾患がある場合、定期的な診察や薬物治療を通じて症状をコントロールすることが大切です。
まとめ
呼吸性アルカローシスは、呼吸過多によって体内の二酸化炭素が過度に失われ、血液がアルカリ性に傾く状態です。過呼吸症候群や肺疾患、不安やパニックが主な原因で、めまい、しびれ、筋肉の痙攣などの症状が現れます。治療には、呼吸のコントロールや基礎疾患の治療が行われ、リラクゼーションやストレス管理も重要です。適切な診断と治療によって、症状を改善し、再発を予防することが可能です。