分娩後出血(PPH)は、分娩後に大量の出血が発生する状態です。通常、胎盤の分娩後、子宮の収縮と凝固経路の活性化により出血が止まります。しかし、これらのプロセスが正常に機能しない場合、生命を脅かす大量の出血が発生することがあります。
PPHの発生メカニズム
胎盤分娩後、以下の2つのメカニズムによって止血が行われます:
- 子宮収縮: 子宮が収縮することで、胎盤が付着していた部分の血管が圧迫され、出血が抑えられます。
- 血栓形成: 落葉膜内にあるプロトロンボティック物質(組織因子など)により凝固経路が活性化され、血栓が形成されます。
これらのメカニズムが機能しない場合、分娩後の出血が止まらず、PPHとなります。
トラネキサム酸(TXA)の作用機序
トラネキサム酸(TXA)は、抗線維素溶解薬であり、プラスミンの形成を阻害することによって血栓を安定させます。これにより、血栓が分解されるのを防ぎ、出血を抑制します。PPHに対して使用されることで、母体の罹患率と死亡率を大幅に改善することが確認されています。
表: PPHの治療薬の比較
薬剤名 | 作用機序 | 使用目的 |
---|---|---|
トラネキサム酸(TXA) | プラスミン形成を阻害し、血栓を安定化。フィブリンの分解を防ぐ。 | 分娩後出血(PPH)の治療 |
オキシトシン | 子宮筋層の収縮を引き起こし、子宮の出血部位を圧迫することで止血。 | 最も一般的にPPHに使用される子宮収縮薬 |
ミソプロストール | プロスタグランジン類似体として作用し、平滑筋収縮を誘発する。 | 子宮収縮薬として使用されるが作用は遅い |
プロトロンビン複合体濃縮物(PCC) | ビタミンK依存性凝固因子(II、IX、X)のレベルを上昇させ、凝固を促進。 | ワルファリンの逆転やビタミンK欠乏による出血 |
デスモプレシン | フォン・ヴィレブランド因子と第VIII因子の内皮放出を促進。血友病Aやフォン・ヴィレブランド病で使用される。 | PPHには使用されない |
まとめ
分娩後出血は、母体にとって重大なリスクを伴う合併症です。トラネキサム酸(TXA)は、フィブリンの分解を防ぐことで血栓を安定化させ、出血を効果的に抑制します。その他、オキシトシンやミソプロストールなどの子宮収縮薬も重要な役割を果たし、PPHの治療に寄与します。