低分子ヘパリン(LMWH)は、血液凝固を抑制する抗凝固薬の一種です。その作用機序は、主に第Xa因子(ファクターXa)という凝固カスケードの中で重要な酵素を阻害することで、血液の凝固を防ぐ仕組みになっています。
1. アンチトロンビン(AT)との結合
低分子ヘパリンは、アンチトロンビン(AT)という自然な抗凝固因子と結合し、その働きを強化します。アンチトロンビンは、血液凝固を促進する酵素であるトロンビンや第Xa因子を不活性化する役割を持っています。
- 低分子ヘパリンがアンチトロンビンに結合することで、アンチトロンビンの働きが数千倍にも増強されます。
- 特に、低分子ヘパリンは第Xa因子に対して強い阻害効果を発揮し、これによりプロトロンビンからトロンビンへの変換を抑制します。トロンビンは血液を凝固させるフィブリンを形成する酵素なので、トロンビンの生成を抑えることで、血液凝固が抑制されます。
2. 第Xa因子に対する選択的作用
従来の未分画ヘパリン(UFH)は、トロンビン(第IIa因子)と第Xa因子の両方を抑制しますが、低分子ヘパリンは第Xa因子に対してより選択的に作用します。第Xa因子が阻害されると、凝固カスケードの下流でトロンビン生成が抑制され、結果として血栓形成が抑制されます。
- 低分子ヘパリンの分子構造は、トロンビンを効果的に阻害するには短すぎるため、主に第Xa因子に働きかけるのが特徴です。
- この第Xa因子選択性が、低分子ヘパリンの血中半減期を長くし、より安定した抗凝固作用をもたらすため、1日1回または2回の投与が可能となります。
3. 抗凝固作用の安定性
低分子ヘパリンは、未分画ヘパリンに比べて、血中での作用がより安定しています。これにより、抗凝固効果を継続的に得ることができ、出血リスクを抑えつつ、静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症(PE)の予防や治療が行えます。また、低分子ヘパリンの安定した作用プロファイルにより、従来のヘパリンのように頻繁なモニタリング(APTT検査)が不要な点も利点です。
まとめ
低分子ヘパリンは、アンチトロンビンを介して第Xa因子を強力に阻害することで、トロンビンの生成を抑制し、血液凝固を防ぐ仕組みです。その選択的な作用により、効果が安定しており、治療のモニタリングが簡便で、長時間作用するため投与回数も少なくて済む点が特徴です。静脈血栓症や肺塞栓症の治療や予防、手術後の血栓予防に広く使用されています。