低分子ヘパリン(Low Molecular Weight Heparin, LMWH)とは?

**低分子ヘパリン(LMWH)**は、抗凝固薬の一種で、血液の凝固を防ぐために使用されます。従来のヘパリン(未分画ヘパリン、UFH)を改良したもので、分子量が小さく、効果がより安定しているのが特徴です。LMWHは、主に静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)の治療や予防、さらには手術後の血栓リスクを低減するために使用されます。

低分子ヘパリンの主な用途

  1. 静脈血栓症(DVT)の治療と予防: LMWHは、DVTやそれに伴う肺塞栓症のリスクを低減するために広く使用されています。特に、手術後の患者や長期間ベッドで安静が必要な患者には、血栓の予防が重要です。
  2. 手術後の血栓予防: 外科手術後、特に骨折や関節手術の後、血栓のリスクが高まるため、LMWHが血栓の形成を予防するために使用されます。
  3. 抗凝固療法の補助: 他の抗凝固薬が適さない場合や、ワルファリンのような薬の初期段階で効果が安定するまでの間、LMWHが使用されることがあります。

低分子ヘパリンの特徴

1. 投与方法と利便性
LMWHは、主に皮下注射(サブキュータニュアス注射)で投与され、1日1回または2回の投与で済むことが多く、治療の利便性が高いです。従来のヘパリン(UFH)と比べ、定期的な血液検査で凝固機能を厳密にモニターする必要がなく、入院せずに自宅で使用することも可能です。

2. 安定した効果と安全性
LMWHは、抗凝固作用が安定しており、使用中の血液凝固能のモニタリング(APTT値の測定)が必要ない場合が多いです。また、従来のヘパリンに比べて出血のリスクが低いことも利点です。ただし、腎機能が低下している患者には慎重に使用する必要があります。

3. 副作用のリスク
LMWHの使用に伴う副作用として、以下のようなリスクがあります。

  • 出血: 他の抗凝固薬と同様、出血のリスクが伴います。特に高齢者や、消化器系の疾患を持つ患者は出血のリスクが高くなるため、注意が必要です。
  • ヘパリン起因性血小板減少症(HIT): まれに、血小板の異常な減少を引き起こすことがあります。HITは、血栓の形成を促進する可能性があり、特に注意が必要です。

低分子ヘパリンの種類

低分子ヘパリンにはいくつかの製剤があり、代表的なものには次のような種類があります。

  • エノキサパリン(商品名:クレキサン)
  • ダルテパリン(商品名:フラグミン)
  • ナドロパリン

これらの製剤は、同じ低分子ヘパリンでありながら、その用量や効果の持続時間が異なるため、医師の指導のもとで使用されます。

低分子ヘパリンの適応と使用上の注意

適応

  • DVT(深部静脈血栓症)およびPE(肺塞栓症)の治療および予防
  • 心筋梗塞や不安定狭心症の治療
  • 手術後の血栓予防

使用上の注意

  • 腎機能障害のある患者: 低分子ヘパリンは腎臓で代謝されるため、腎機能が低下している患者に投与する際には、血中濃度が高まり過ぎないように注意が必要です。
  • 出血リスクのある患者: 出血性疾患や、消化管出血、脳出血のリスクがある患者には慎重に使用することが求められます。

まとめ

低分子ヘパリンは、従来のヘパリンよりも使いやすく、血栓予防と治療において高い効果を発揮する薬です。DVTやPEの治療、手術後の血栓予防など幅広い用途で使用され、投与が簡便で安定した効果が得られるため、現在多くの医療現場で採用されています。ただし、副作用や腎機能への影響には注意が必要ですので、医師の指導のもと適切に使用することが重要です。


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