代謝性アルカローシスは、体内の酸と塩基のバランスが崩れ、血液が過剰にアルカリ性(pHが高くなる)になる状態を指します。通常、血液のpHは7.35~7.45の間に保たれていますが、代謝性アルカローシスではこれが7.45以上に上昇します。これは、体内での酸の喪失や塩基の過剰摂取によって引き起こされます。早期に診断し、適切な治療を行わないと、神経や心臓の機能に影響を及ぼす可能性があります。
1. 原因
代謝性アルカローシスは、主に次のような原因で発生します。
- 嘔吐や胃液の喪失: 胃液には塩酸が含まれており、頻繁な嘔吐によってこの酸が失われると、体内がアルカリ性に傾きます。
- 利尿薬の使用: 一部の利尿薬(特にループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬)は、体内のカリウムや水分を過剰に排出し、代謝性アルカローシスを引き起こすことがあります。
- 重度の下痢: 下痢によって体内の塩酸が失われると、アルカローシスのリスクが高まります。
- カリウム欠乏症(低カリウム血症): カリウムが不足すると、腎臓が酸を排出し、体内がアルカリ性に傾くことがあります。
- 過剰なアルカリ剤の摂取: 制酸薬(抗酸薬)の過剰摂取や、重曹の過剰使用によって塩基が過剰になり、アルカローシスが引き起こされることがあります。
2. 症状
代謝性アルカローシスの症状は、軽度の場合は無症状であることもありますが、pHの上昇が進むと次のような症状が現れます。
- 倦怠感: 身体全体のだるさや疲れやすさを感じることがあります。
- 筋肉のけいれんや痙攣: 特に四肢の筋肉がつることが多く、時には手足にしびれを感じることもあります。
- 混乱やめまい: 神経系が影響を受けるため、思考がぼんやりしたり、集中力が低下したりすることがあります。
- 吐き気や嘔吐: 胃腸の働きが乱れ、消化不良や嘔吐を引き起こすことがあります。
- 呼吸の遅延(低換気): pHが上昇すると、体が酸を保持しようとして呼吸が浅く、遅くなることがあります。
3. 診断方法
代謝性アルカローシスは、血液検査を通じて診断されます。具体的には、以下の検査が行われます。
- 動脈血ガス分析: 血液中のpHや二酸化炭素(CO2)、酸素(O2)のレベルを測定し、血液がアルカリ性になっているかどうかを確認します。
- 電解質検査: カリウム、ナトリウム、クロールなどの電解質バランスを評価します。カリウムの低下やクロールの欠乏がある場合、代謝性アルカローシスの可能性があります。
- 尿検査: 尿中の電解質を測定することで、腎臓の機能や体内の電解質の排泄状況を把握します。
4. 治療方法
代謝性アルカローシスの治療は、原因に応じて異なりますが、以下のような方法が一般的です。
- 電解質補正: カリウムやクロールの補充が必要です。カリウムの欠乏が原因の場合、カリウムを点滴や経口で補充します。また、クロールが不足している場合には生理食塩水(塩化ナトリウム溶液)を投与します。
- 利尿薬の調整: 利尿薬の使用が原因の場合は、薬剤の種類や投与量を調整することが重要です。場合によっては、利尿薬の使用を中止することも検討されます。
- アルカリ剤の摂取制限: 制酸薬や重曹などの過剰摂取が原因の場合は、これらの摂取を制限します。
- 基礎疾患の治療: 嘔吐や下痢など、アルカローシスを引き起こしている基礎疾患の治療が必要です。消化器系の問題がある場合は、それに対する適切な治療を行います。
5. 予防策
代謝性アルカローシスを予防するためには、次のような対策が有効です。
- 電解質バランスの維持: カリウムやナトリウム、クロールを含むバランスの取れた食事を心がけることで、電解質の異常を予防できます。
- 薬物の適切な使用: 利尿薬や制酸薬を使用する際には、医師の指示に従い、適切な投与量を守ることが重要です。自己判断での過剰使用は避けましょう。
- 健康的な生活習慣の維持: 長期間にわたる下痢や嘔吐がある場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
まとめ
代謝性アルカローシスは、体内の酸塩基バランスが崩れ、血液が過剰にアルカリ性になる状態です。嘔吐や利尿薬の使用、電解質異常が主な原因で、倦怠感、筋肉のけいれん、混乱などの症状が現れます。治療は原因に応じて電解質補正や薬物の調整が行われ、予防には電解質バランスを維持することが重要です。症状が現れた場合は早めに医師の診察を受け、適切な治療を行うことが推奨されます。