シアン化物中毒の治療方法

シアン化物(Cyanide、CN−)は、工業的に幅広く使用される有毒物質であり、速やかな対応が必要な中毒です。この記事では、シアン化物中毒のメカニズムと治療法について詳しく解説します。

シアン化物中毒とは?

シアン化物は、ミトコンドリア毒素であり、特にチトクロムcオキシダーゼという酵素に高い親和性を持ちます。この酵素は、電子伝達系の重要な部分で、ATPの生成に関与しています。シアン化物がこの酵素に結合すると、酸化的リン酸化が阻害され、細胞はエネルギー生産のために嫌気性解糖へとシフトします。この結果、急速に乳酸アシドーシスが進行し、適切な処置が行われない場合、心臓血管系の崩壊や死に至ります。

シアン化物中毒の症状には、息切れ、めまい、動悸、皮膚の赤み(未使用の酸素が静脈血に残り、血液が鮮やかな赤色になるため)などがあります。

シアン化物中毒の治療

シアン化物中毒が疑われる患者には、迅速に解毒剤を投与することが重要です。以下に代表的な治療法を紹介します。

治療法作用機序注意点
硫酸ナトリウム(Sodium thiosulfate)硫黄供与体として作用し、シアン化物を無害なチオシアン酸に変換し、尿中に排泄させる。単独または他の治療薬と併用されることがある。
ヒドロキソコバラミン(Hydroxocobalamin)ビタミンB12の前駆体で、シアン化物と結合し、無毒なシアノコバラミンを形成して尿中に排泄する。急性のシアン化物中毒に対して迅速に効果を発揮。
亜硝酸ナトリウム(Sodium nitrite)メトヘモグロビンの生成を促進し、シアン化物がチトクロムオキシダーゼに結合するのを防ぐ。メトヘモグロビンはシアン化物と高い親和性を持つ。過剰なメトヘモグロビン血症は有害。

1. 硫酸ナトリウム(Sodium thiosulfate)

硫酸ナトリウムは、シアン化物に硫黄を供与し、チオシアン酸という無毒な代謝産物に変換します。チオシアン酸は尿中に排泄されるため、シアン化物中毒の症状を和らげます。この治療法は、他の解毒剤と併用されることが多いです。

2. ヒドロキソコバラミン(Hydroxocobalamin)

ヒドロキソコバラミンは、ビタミンB12の前駆体で、シアン化物と直接結合して、無毒なシアノコバラミンを形成します。シアノコバラミンは尿中に排泄されるため、シアン化物の毒性を迅速に低減します。この治療法は、特に急性中毒に対して効果的です。

3. 亜硝酸ナトリウム(Sodium nitrite)

亜硝酸ナトリウムは、メトヘモグロビンを生成することで、シアン化物をチトクロムオキシダーゼから解放させます。メトヘモグロビンはシアン化物と高い親和性を持ち、これによりシアン化物がミトコンドリアの電子伝達系に結合するのを防ぎます。ただし、メトヘモグロビンは酸素を運ぶ能力がないため、過剰なメトヘモグロビン血症を引き起こさないように、用量に注意が必要です。

シアン化物中毒のメカニズム

シアン化物は、主に鉄(Fe3+)と強く結合し、チトクロムcオキシダーゼの働きを阻害します。これにより、酸化的リン酸化が停止し、細胞はエネルギーを産生できなくなり、細胞死が引き起こされます。シアン化物が解毒されない場合、酸素が利用されなくなるため、細胞は酸欠状態に陥り、最終的に死に至ります。

メカニズム結果
チトクロムcオキシダーゼとの結合酸化的リン酸化の停止、ATP生成の阻害
嫌気性解糖の開始乳酸アシドーシスの進行
酸素未使用による静脈血の赤み静脈血が酸素を保持し、赤色を呈する

まとめ

シアン化物は、ミトコンドリアの電子伝達系を阻害する強力な毒素です。適切な解毒剤を迅速に投与することで、中毒の進行を防ぐことができます。ヒドロキソコバラミン硫酸ナトリウム、そして亜硝酸ナトリウムは、シアン化物中毒に対する効果的な治療法です。


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