1. ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群とは?
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群(Waterhouse-Friderichsen syndrome)は、重度の敗血症に伴う非常に稀で致命的な状態です。この症候群は、感染症によって副腎が突然出血し、急性副腎不全を引き起こします。特に、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)による感染症でよく報告されていますが、他の細菌、例えばNeisseria gonorrhoeaeや肺炎球菌、インフルエンザ菌なども原因となることがあります。
2. メカニズム
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群は、敗血症が進行して全身性炎症反応を引き起こす中で、免疫系が過剰に反応し、副腎に急性の出血を引き起こします。副腎は、ストレスホルモンであるコルチゾールや、血圧を調節するアルドステロンを分泌する重要な臓器ですが、この出血によりホルモンの分泌が停止し、血圧低下やショック状態が急激に進行します。
3. 主な原因菌
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群の主な原因菌は以下の通りです。
- Neisseria meningitidis(髄膜炎菌):この菌による感染症が最も多く関連しています。
- Neisseria gonorrhoeae:稀ではありますが、性感染症の原因菌であるNeisseria gonorrhoeaeによる敗血症が原因となる場合があります。
- 肺炎球菌やインフルエンザ菌:これらの細菌感染によっても引き起こされることがあります。
4. 症状
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群は急激に進行するため、以下の症状が突然現れます。
- 高熱
- 急激な血圧低下(ショック状態)
- 意識混濁や錯乱
- 紫斑(皮膚に現れる赤紫色の斑点):全身に小さな出血が起こるため
- 四肢の冷えやチアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる)
- 腹痛、吐き気、嘔吐
- 腎不全や多臓器不全:重症例では、急速に臓器が機能しなくなる
最も特徴的な症状は、副腎の大量出血による急性の副腎不全です。副腎が正常に機能しないと、血圧を維持するためのホルモン(特にコルチゾールとアルドステロン)が分泌されなくなり、血圧が極端に低下し、ショック状態に陥ります。
5. 診断
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群の診断は緊急性が高く、臨床的な症状から迅速に判断されます。具体的には以下の検査が行われます。
- 血液検査:感染の有無や炎症マーカー、ホルモンの異常を確認します。
- CTやMRI:副腎出血の有無を確認するために画像診断を行います。
- 髄液検査:髄膜炎が疑われる場合、髄液を採取して病原菌を特定します。
6. 治療
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群は、迅速な治療が不可欠です。以下の治療法が行われます。
- 広域抗生物質の早期投与:敗血症の原因菌を迅速に除去するため、広域抗生物質を早急に投与します。原因菌が特定された後は、適切な抗生物質に切り替えます。
- 副腎ホルモン補充療法:副腎不全を補うために、コルチゾールなどのステロイドを投与し、血圧を維持します。
- 輸液・昇圧剤:血圧低下を防ぐために、輸液や昇圧剤が使用されます。
- 集中治療:重症の場合、集中治療室(ICU)での管理が必要です。人工呼吸器や腎臓透析が必要になる場合もあります。
7. 予後と合併症
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群は、早期に治療が行われないと致死率が非常に高い状態です。しかし、迅速な抗生物質治療とホルモン補充療法により、症状が改善する場合もあります。ただし、ショック状態が長く続いた場合は、多臓器不全や後遺症が残る可能性があります。
8. 予防
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群の予防は、根本原因である細菌感染を防ぐことが最も重要です。特に、髄膜炎菌に対するワクチン接種は、発症リスクを大幅に減らすことができます。また、性感染症予防のためにコンドームの使用や、淋病などの性感染症に対する定期的な検査と治療も有効です。
まとめ
ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群は、非常に重篤で迅速な対応が必要な病態です。特に、髄膜炎菌などの感染症に伴う敗血症が原因となることが多く、早期診断と治療が生命を救う鍵となります。感染症の予防や早期治療が、この症候群の発症を防ぐために重要です。