ウイルス由来のRNAと感染性の関係について

概要
ウイルスから精製されたRNA分子が感染性を持つ(つまり、宿主細胞内でウイルスタンパク質の合成やウイルスゲノムの複製を引き起こす)ためには、そのRNAが宿主の翻訳装置を利用できる形で存在する必要があります。具体的には、精製されたRNA分子が一本鎖(SS)でプラス鎖(+)RNA、すなわちSS(+)RNAである必要があります。プラス鎖RNAは、直接mRNAとして機能し、宿主細胞内で翻訳されるためです。この記事では、SS(+)RNAウイルスの感染性と、他のタイプのRNAウイルスとの違いについて解説します。

感染性を持つRNAの条件

RNAの種類感染性説明
SS(+)RNA感染性あり宿主細胞で直接mRNAとして機能し、ウイルスタンパク質を合成する。
SS(−)RNARNA依存性RNAポリメラーゼが必要宿主細胞内で直接翻訳されるためには、ウイルス由来のRNA依存性RNAポリメラーゼが必要であるため、RNA単独では機能しない。
二本鎖(dsRNA)ウイルスRNAポリメラーゼが必要dsRNAは宿主細胞内で翻訳されるためにはウイルス由来のRNAポリメラーゼが必要であるため、RNA単独では機能しない。

ウイルスの例とそのRNA特性

ウイルスによって持つRNAの種類が異なるため、感染性や必要な酵素も異なります。以下は、代表的なウイルスのRNAタイプと、それに基づく感染性、さらに各ウイルスがカプシドやエンベロープを持つかどうかについての解説です。

ウイルスRNAタイプ感染性特徴カプシド/エンベロープ
ライノウイルス(ピコルナウイルス)SS(+)RNA感染性あり精製されたSS(+)RNAは直接mRNAとして機能し、ウイルスタンパク質を合成できる。カプシド(+)/エンベロープ(-)
HIV(レトロウイルス)SS(+)RNA逆転写酵素が必要逆転写酵素を用いて宿主DNAに統合されるため、RNA単独では感染できない。カプシド(+)/エンベロープ(+)
インフルエンザA(オルソミクソウイルス)SS(−)RNARNA依存性RNAポリメラーゼが必要RNA依存性RNAポリメラーゼがなければ、SS(−)RNAは翻訳されない。カプシド(+)/エンベロープ(+)
呼吸器合胞体ウイルス(RSウイルス、パラミクソウイルス)SS(−)RNARNA依存性RNAポリメラーゼが必要同様にRNA依存性RNAポリメラーゼが必要。カプシド(+)/エンベロープ(+)
ロタウイルス(レオウイルス)二本鎖RNA(dsRNA)ウイルスRNAポリメラーゼが必要dsRNA単独では感染できず、ウイルスRNAポリメラーゼが必要。カプシド(+)/エンベロープ(-)

SS(+)RNAの感染性

SS(+)RNAを持つウイルス(例:ライノウイルス、ピコルナウイルス)は、そのRNAが宿主細胞内に入ると、直接的にmRNAとして翻訳されます。これにより、ウイルスタンパク質の合成が開始され、ウイルスの複製サイクルが進行します。このため、ウイルスのカプシドやエンベロープがなくても、精製されたSS(+)RNA自体が感染性を持つことがあります。

SS(−)RNAとdsRNAの感染性

一方、SS(−)RNAやdsRNAを持つウイルス(例:インフルエンザウイルス、ロタウイルス)は、ウイルス由来のRNAポリメラーゼがなければ、宿主細胞内でRNAの翻訳ができません。これらのウイルスRNAは精製された状態では単独で感染性を発揮せず、ウイルス全体の構造やウイルス酵素が必要となります。

まとめ

ウイルス由来の精製されたRNA分子が感染性を持つかどうかは、そのRNAの種類によって決まります。特に、SS(+)RNAウイルスのRNAは、宿主細胞内で直接翻訳されるため、RNA単独でも感染性を持つことができます。しかし、SS(−)RNAやdsRNAを持つウイルスでは、追加のウイルス酵素(RNAポリメラーゼなど)が必要であるため、RNA単独では感染を引き起こすことができません。また、カプシドやエンベロープを持つかどうかによってもウイルスの構造と機能が異なります。


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