**アデノシンデアミナーゼ(ADA)**は、プリン代謝において重要な役割を担う酵素です。ADAはアデノシンとデオキシアデノシンをイノシンとデオキシイノシンに変換し、これらは最終的にヒポキサンチンや尿酸などの無害な老廃物に分解されて体外に排出されます。
ADAの阻害と影響
ADA阻害が起こると、デオキシアデノシンが異常な経路で代謝され、細胞内でデオキシアデノシン三リン酸(dATP)が蓄積します。dATPの蓄積は、次のような影響を与えます。
- カスパーゼ系の活性化:細胞のアポトーシス(細胞死)を促進します。
- リボヌクレオチドレダクターゼの阻害:DNA合成に必要なデオキシリボヌクレオチドの生成が抑制され、細胞がDNAを合成・修復できなくなります。
ADAの阻害や欠如は、特にリンパ球に大きな影響を与えます。リンパ球は有糸分裂的に活性な細胞であるため、ADA欠損によって大きなダメージを受け、免疫不全が引き起こされます。
ADA阻害剤の臨床使用
ADA阻害剤(例:クラドリビン)は、リンパ球由来のがん、特に有毛細胞白血病などの治療に使用されます。ADA阻害はリンパ球の細胞毒性を高めるため、これらの腫瘍の成長を抑える効果があります。
ADA欠損による疾患
ADA遺伝子に変異があると、**重症複合免疫不全症(SCID)**が発症します。これは、ADA欠損によりBリンパ球やTリンパ球が機能しなくなることで、免疫システムがほぼ完全に破壊される疾患です。SCIDは重篤な免疫不全を引き起こし、生後間もない時期に致命的となることが多いです。
他のがんとの違い
疾患 | ADA阻害の効果 |
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有毛細胞白血病 | ADA阻害剤に反応しやすく、治療に使用されます。リンパ球由来のがんの一例。 |
悪性黒色腫、卵巣奇形腫、軟部肉腫 | リンパ球細胞に由来しないため、ADA阻害は有効ではありません。 |
小細胞肺がん | 急速に成長する神経内分泌腫瘍であり、ADA阻害は効果的でないことが多いです。 |
まとめ
**アデノシンデアミナーゼ(ADA)**は、プリン代謝に重要な酵素であり、リンパ球の生存に不可欠です。ADA阻害や欠損は特にリンパ球に毒性があり、リンパ球由来のがんの治療に使用されます。また、ADA遺伝子に変異がある場合には、**重症複合免疫不全症(SCID)**という深刻な免疫不全が発生します。